知っておきたい、紙の文献コピーが電子版よりも必要とされる国々の存在|Wileyなど学術出版社が後発開発途上国(LDC)向け文献複写サービスの著作権料免除へ

world雑誌論文など、研究に必要な文献を図書館が所蔵していないとき、他の図書館からコピーを取り寄せる「文献複写サービス」を利用したことのある人は多いでしょう。クリックひとつでダウンロードできる電子版と比べて時代遅れのように思えるかもしれませんが、世界には紙のコピーの方が必要とされる国が多く残っていることを知ると、見方が違ってくるのではないでしょうか。

Wileyなど理工医学(STM)分野の出版社が参加する国際的な団体 STM は、開発途上国に対して質の高い医療・学術情報へのアクセス提供を通じて先進国との「情報のギャップ」を埋める活動に長年取り組んでいます。これまではオンライン文献へのアクセスを無償化ないしは低価格化する支援策が中心となってきましたが、このほどSTMは、紙のコピーによる文献複写サービスを「後発開発途上国」と呼ばれる特に開発が遅れた国々に提供する場合を対象に、出版社が著作権料の課金を特別に免除するイニシアティブを立ち上げ、Wileyなどの会員出版社が協力を表明しました。STMで Research4Life (開発途上国からの科学技術情報アクセスを支援する官民連携プログラム)との協力を担当するRichard Gedye氏が、Wileyのブログ Exchanges への寄稿でその背景を解説しています。

医療・学術情報面での開発途上国支援策としては、世界保健機構(WHO)のプロジェクトとして2002年に発足したHINARIがよく知られています。これは、開発途上国の研究者・医療従事者に対して生物医学分野の査読誌へのオンラインアクセスを提供するもので、Wileyなど6つの出版社の参加によって始められ、その後急速に拡大しました。

現在HINARIは、他の3つのプログラムとともに前述のResearch4Lifeの一部となっています。Research4Lifeでは、開発途上国116か国に、電子ジャーナル・電子書籍へのオンラインアクセスを無償または大幅な低価格で提供しています。現在出版社185社が参加し、対象コンテンツはジャーナル14,500誌・電子書籍7万タイトルにのぼります。

photocopyしかし、オンラインアクセスを提供するだけでは、開発途上国のニーズを十分に満たすことができません。特に開発が遅れている国は、不安定な電力供給、PCの不足、劣悪なインターネット回線など、有償・無償に関わらずオンラインアクセス自体が難しい環境にあるためです。

そのためSTMは、国連が定める後発開発途上国(Least Developed Country = LDC)向けの文献複写サービスに対して著作権料を免除するという声明を起草し、会員出版社に署名を呼び掛けました。これに協力する出版社は、自社のジャーナルを購読する図書館などが、後発開発途上国に属しResearch4Lifeの認定を受けた非営利機関に対して文献複写を提供する場合に、著作権料の課金を免除することになります。これによって、British Libraryをはじめ文献複写を行う図書館・機関は、著作権料の負担を懸念することなく、後発開発途上国の機関に文献コピーを提供できるようになります。Gedye氏の記事の時点で、Wileyを含む17の出版社がこの声明に署名し、協力を約束しています。

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