PDF vs HTML - 電子ジャーナルの将来を制するのはどちら?

pdfvshtml電子ジャーナルで論文を読むときに、PDFとHTMLのどちらをよく使いますか? Wileyのジャーナルの利用データを見ると、PDFの利用が65%、HTMLが35%をそれぞれ占め、PDFの利用が多数派であることを示しています。

引用文献へのリンクなど便利な機能を備えたHTMLがPDFよりも利用されない理由、また今後の電子ジャーナルでこの傾向は変わっていくのかといった展望を解説するプレゼンテーションが、Wileyの科学研究・出版ブログExchangesで公開されました。プレゼンターは、Wileyでデジタルコンテンツの開発・管理を担当するGary Spencerです。(再生時間:8分40秒)

Wileyを含む多くの出版社の電子ジャーナルでは、論文をPDFとHTMLの両方のフォーマットで提供しています。一般に、PCの画面上で読むには、引用文献リンクなどの追加機能があり、またページ表示が速いHTMLの方が有利です。一方、プリントアウトして読みやすいのは圧倒的にPDFの方です。PCから離れて論文を持ち歩くには紙に印刷する人が多いでしょうから、現状ではPDFの方が携帯性に優れていると言えます。また、EndNote, Mendeleyなどの文献管理ツールで論文を管理したり、論文を共同研究者に転送して共有する場合などにもPDFの方が便利なことが多いようです。

smart_articleしかし、印刷時の表示を再現することを重視するPDFが、機能的には昔からほとんど変わっていないのに対して、HTMLは技術的進歩を反映してさまざまな進化を遂げています。例えばWileyの化学ジャーナルの一部では論文に出てくる化合物の構造式や物性データを一覧表示する (右図)など、各出版社が工夫して独自の機能を追加しています。また最近は、論文のSupporting Informationで動画や音声ファイルを公開する例が増えていて、そういった多様な種類のファイルを扱えるのもHTMLの利点です。

library2010年のiPadの登場は、学術出版の世界にも大きな変化をもたらしました。iPadなどのタブレットを使ってのアクセスが着実に増えるにつれ、Angewandte Chemie International Editionをはじめ、多くのジャーナルがHTMLをベースにしたタブレット用アプリで読めるようになりました。紙ではなくタブレットで論文を読む行動が今後さらに普及すれば、携帯性の面でのPDFの優位性は失われます。文献管理や共同研究者との共有といった研究者のワークフローに関わる部分では、まだPDFに一日の長があると言えますが、将来のHTMLの技術革新によって近いうちに逆転が起こるかもしれません。3年後あるいは5年後、はたして私たちは今のようにPDFを使い続けているでしょうか?

上のリンク先記事では、PDFとHTMLそれぞれの優位性について別の視点を示す読者コメントの投稿も始まっています。ぜひご参考にして下さい。

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