<論文紹介> 遺伝子操作した光合成細菌シアノバクテリアを用いたC=C結合の不斉還元反応 (ACIE Hot Paper)

Credit - Stanislav Pobytov/iStockphoto

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有機合成のための触媒として酵素(生体触媒)を用いる研究が近年注目されています。酵素は、特定の反応を選択的に促進するなど触媒としてすぐれた性質を発揮しますが、反応に用いる際に補因子(cofactor)とよばれる他の物質がしばしば必要となり、また余分な副生成物が発生するなどの難点があり、実用化に向けての課題となっていました。

独ルール大学ボーフムのRobert Kourist教授らのグループは、酸化還元酵素エン酸レダクターゼ(ER)の遺伝子を、遺伝子組換えによって、光合成細菌であるシアノバクテリアの一種 Synechocystis sp. PCC 6803に導入しました。単細胞のシアノバクテリアは、植物や藻類と比べて遺伝子操作が容易という利点があります。この遺伝子組換えシアノバクテリアは、酵素ERを生産するとともに、補因子の助けを借りることなく、ERが必要とする化学エネルギーを光合成によって供給できます。

同グループは、このシアノバクテリアを用いた反応系で、ERを生体触媒として炭素-炭素二重結合の高収率・高選択的な不斉還元を実現しました。今回のアプローチは、補因子が不要で、また副生成物が発生しない環境にやさしい触媒反応を実現するものです。他のさまざまな反応にも応用可能性があり、多様な化合物の合成につながることが期待されます。

この成果を報告した論文はAngewandte Chemie International Edition (ACIE)に掲載され、同誌の注目論文Hot Paperに選ばれました。

Angewandte Chemie International Edition

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