<論文紹介> 高齢者らを悩ませる変形性関節症の治療につながるか / 高分子化学の手法による軟骨組織の機能回復 (ACIE Hot Paper)

Credit - Monika Wisniewska/Shutterstock

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多くの高齢者を悩ませる膝の痛みは、医学的には変形性関節症 (osteoarthritis) とよばれる疾患です。この変形性関節症は、関節で潤滑油の役割を果たす軟骨がすり減り、関節の炎症や変形を引き起こすことによって生じます。体重を長年支えてきた膝で、老化とともに起こることが多いですが、スポーツ選手などが特定の関節を酷使した場合は若いうちから発症することもあります。すり減った軟骨を元に戻す抜本的な治療法は開発されておらず、多くの患者は炎症を抑えたり病気の進行を遅らせる保存的治療に頼っているのが現状です。

そうした中で、米ボストン大学のMark W. Grinstaff教授らのグループは、高分子化学の応用によって、弱った軟骨の強化と機能回復を図る方法を開発しました。健康な状態の軟骨では、グリコサミノグリカン (glycosaminoglycan, GAG)という糖鎖がタンパク質と結合し、負の荷電によって保水性を発揮することによって、関節でクッションとしての役割を果たしています。老化などによって軟骨中のグリコサミノグリカンが減少すると、このクッションが薄くなって保水性が低下し、機能が衰えます。同グループは実験で、生体との親和性の高いホスホリルコリン基を含む化合物MPCモノマーをウシの軟骨組織に注入し、レーザー光照射によって重合反応を起こさせました。重合化によって生じた高分子は、軟骨に残った糖鎖と複雑に絡み合って、多くの水分を保持するゲル(ヒドロゲル)を作りました。このヒドロゲルは、すぐれた保水性によって軟骨のクッション機能を回復するとともに、高い耐久性を発揮することが確認されました。

変形性関節症に対する抜本的な治療法への発展が期待されるこの成果は、Angewandte Chemie International Edition (ACIE) で報告され、同誌の注目論文Hot Paperに選ばれるとともに、化学ニュースサイトChemistry Viewsで紹介されました。

Angewandte Chemie International Edition

■ ACIEは、急速な展開によって注目を集めている分野の研究で、編集委員が特に重要性を認めた論文をHot Paperとしています。
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