ジャーナルに掲載された自分の論文をネット公開してもいい? 友人にメールで送るのは? 論文著者が権利上やっていいこと・ダメなこと

okWileyが各地で開催している論文著者向けのセミナーで、参加者から最近よく受けるようになった質問は「ジャーナルにアクセプトされた論文のPDFをResearchGateにアップロードしていいか?」「大学のサーバー(機関リポジトリ)で公開するため論文を提出するよう言われたが、応じていいか?」といった、自分の論文をネットで公開する権利についてのものです。原則としては、出版社に提出いただく著作権譲渡に関する合意書(Copyright Transfer Agreement)が定める範囲内で利用が認められますが、英語で細かく書かれた規約を正確に理解するのは骨が折れるかもしれません。

dontここでは、Wileyの多くのジャーナルで採用されている規約の内容を参考までにご紹介します。「多くの」と付けたのは、同じWileyの中でも一部のジャーナルでは、発行元の学会の方針などにより規約が異なるためです。正確なところは、投稿先のジャーナルのCopyright Transfer Agreementを個別に確認いただき、また不明の点は該当誌の編集部にお問い合わせ下さい。(Copyright Transfer Agreementの内容は、Wiley Online Library上の各ジャーナルホームページ中 Author Guidelines のセクションから参照できます。)

まず覚えていただきたいのは、同じ論文でも最初の投稿から正式出版までの間に複数のバージョンが存在し、そのバージョンによって利用できる範囲が異なるという点です。ここで重要なのは、次の3種類のバージョンです。

  1. Submitted Version (preprint) ・・・ ジャーナルに投稿した最初の原稿で、査読・リビジョンを受ける前のものです。
  2. Accepted Version (postprint) ・・・ 査読・リビジョンを経てアクセプトされた最終版の著者原稿です。出版社によるレイアウトや校正は経ていません。
  3. Version of Record (VoR) ・・・ レイアウトや校正を経て、Wiley Online Libraryで公開された正式版の論文です。

これら3つのバージョンのそれぞれについて、以下のような利用規定になっています。

1. Submitted Version (preprint)

○ 出版社への投稿後(一部のジャーナルでは正式出版後)、以下で公開可

  • 著者の個人サイト(研究室ホームページ・ResearchGateの個人ページなど)
  • 大学・企業など所属機関のサーバー(機関リポジトリ)
  • 非営利の分野別サーバー(プレプリントアーカイブ。arXivなど)

公開したファイルを後から正式版に差し替えることはできません。また論文がアクセプトされたらその旨記載するとともに、出版後は以下の文面の注意書きと正式版へのリンクを入れて下さい。 “This is the pre-peer reviewed version of the following article: (論文の書誌情報), which has been published in final form at http://…(正式版へのリンク).

○ 論文のコピーや電子ファイルを、他の研究者・知人に個人的に送ることができます。
× 一方、システマチックな方法での配布・共有(メーリングリストに載せるなど)は不可となっています。

2. Accepted Version (postprint)

○ 正式出版後、理工医学では12か月、人文社会科学では24か月の猶予期間(embargo)を経たのちに以下で公開可

  • 著者の個人サイト(研究室ホームページ・ResearchGateの個人ページなど)
  • 大学・企業など所属機関のサーバー(機関リポジトリ)
  • Wileyが指定する(*)非営利の分野別サーバー  * AgEcon, arXiv, PhilPapers, PubMedCentral, RePEc, Social Science Research Network (2014年12月現在)

公開したファイルを後から正式版に差し替えることはできません。また出版後は、以下の文面の注意書きと正式版へのリンクを入れて下さい。 “This is the accepted version of the following article: (論文の書誌情報), which has been published in final form at http://…(正式版へのリンク). “

○ 論文のコピーや電子ファイルを、他の研究者・知人に個人的に送ることができます。
× 一方、システマチックな方法での配布・共有(メーリングリストに載せるなど)は不可となっています。

3. Version of Record (VoR)

× 掲載ジャーナル以外の場所でのネット公開は、一律に不可となっています。(論文出版料金 Article Processing Charge = APC を支払ってオープンアクセスにした論文は除く)

○ 大学でジャーナルを購読していないなどでアクセス権のない読者に論文を読んでもらいたい場合は、例外的に次の方法が認められています。

  • コレスポンディングオーサーが最大10人を選んで、特別に無料アクセスを提供することができます(著者専用サイト Wiley Author Services から設定)
  • 論文のコピーや電子ファイルを、他の研究者・知人からの個別のリクエストに応じて無償で送ることができます

○ 著者が所属する機関で行う授業の教材(コースパック)など、教育・研修目的での利用は認められています。その場合、機関の外部から該当の論文にアクセスできないよう、ID・パスワードなど適切な方法でアクセス制限を行うことが条件になります。
× 一方、外部向け・営利目的のセミナーなど、通常の教育活動以外での利用は認められていません。


これで、冒頭の「自分の論文をResearchGateにアップロードしていいか」という質問への答もお分かりいただけたでしょう。Submitted Versionか、または出版後理工医学では12か月/人文社会科学では24カ月経過したAccepted VersionであればOKですが、出版された正式版は不可です。

繰り返しますが、これらはWileyの多くのジャーナルで採用されている一般的なポリシーで、一部のジャーナルでは例外的な規定もあるため、確実を期するために個別のジャーナルのCopyright Transfer Agreementを参照するようにして下さい。また、不明の点は該当のジャーナルの編集部にお問い合わせ下さい。

(参考: Wiley Online Library: Wiley’s Self-Archiving Policy ページ)

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