<論文紹介> 体温で元の形に戻る形状記憶ポリマー / 転移温度の緻密な制御法を開発、医療用材料などへの応用に期待


ロチェスター大学が公開したYouTube動画

形状記憶ポリマー(shape-memory polymer = SMP)は、最初に与えられたパーマネントな形状を記憶し、力が加わって変形した後に加熱すると自発的に元の形に戻るという特異な性質を備えた高分子材料です。SMPは長年にわたり活発に研究され、医療用材料などへの応用が期待されています。

SMPを医療用材料として使うには、生分解性などの性質に加えて、元の形に戻るための転移温度が高すぎず、体温に近い温度で形状変化を起こすことが要件になります。人体に接しているSMPを高温に熱するわけにはいかないからですが、SMPの転移温度を制御するのは難しく、これまでに開発されたSMPは、形状を回復するのに60~75℃といった高温を要することがしばしばありました。

米ロチェスター大学のMitchell Anthamatten教授らのグループは、ポリマーの構成要素となる高分子鎖を結合・固定させる(架橋する)リンカーと呼ばれる分子を導入することで、この課題を解決しました。リンカー分子の分子量などを変えることで転移温度の緻密な制御が可能になり、室温と体温の中間の適切な温度に設定することに成功しました。

この方法で合成したSMPは、室温下では弾力のあるゴム状ですが、細長く引っ張ることで硬化し、曲げたりねじったりするとそのままの形で固定されます。しかし、指先で触れてしばらく温めるだけで元の形に戻ります。

また、このSMPは変形時に大きな弾性エネルギーを蓄えることができるため、加熱によって元の形状に戻る際に強い力を生み出します。上のYouTube動画では、温風機で温められたSMPが、形状回復に伴っておもちゃのトラックを引っ張る様子を見ることができます。これらのすぐれた性質を備えたSMPは、医療用材料をはじめさまざまな分野に応用が広がることが期待されます。

この成果を報告する論文は、Journal of Polymer Science Part B: Polymer Physicsにこのほど掲載されました。

Journal of Polymer Science Part B: Polymer Physics

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