<論文紹介> チェコ産にしますか、それともスリランカ産? 産出地が異なる天然グラファイトから合成したグラフェンの性質に違い (Chem. Eur. J. Hot Paper)

ワインを買う時にラベルで原産地を確かめる人は多いでしょうが、グラファイトではどうでしょうか? 天然グラファイトから酸化グラフェンや還元酸化グラフェンを化学的に合成する場合、グラファイトの産出地による品質の違いから無視できない影響が生まれるようです。シンガポール南洋理工大学のMartin Pumera准教授らが Chemistry - A European Journal で報告しました。

Chemistry - A European Journal

注目の炭素材料として急速に研究が進むグラフェンは、これまでにいくつかの合成法が開発されています。一枚のシート状のグラフェンを得る方法としては、ガスを使って基板上に薄膜を形成する化学気相成長法(CVD法)が一般的ですが、電気化学的用途などのためにまとまった量のグラフェンを合成する場合には、より効率的な化学的剥離法と呼ばれる方法が多く用いられます。これは、原料となるグラファイト(黒鉛)を酸化して酸化グラフェン(GO)を合成したのち、何らかの方法で還元して還元酸化グラフェン(RGO)を得るというものです。RGOは純粋なグラフェンと比べてわずかな欠陥が生じますが、グラフェンに近い性質を示し、また官能基修飾も可能です。

この化学的剥離法の出発原料となるグラファイトには、鉱山から採掘される天然グラファイトと人工的に生産される合成グラファイトとがあります。合成グラファイトは高純度ですがその分高価なため、天然グラファイトが広く利用されています。しかし天然グラファイトの品質は必ずしも一定ではなく、そこから合成されたGOおよびRGOの性質に違いをもたらす可能性があります。

GraphitePumera准教授らは、チェコ・スリランカ・ジンバブエで産出した計4種類のグラファイトを試料として、それぞれの組成を分析するとともに、同じ条件でGOとRGOを合成しました。グラファイト中の炭素と酸素の元素組成比(C/O比)は、試料によって13.6~22.4と違いが見られました。それらの酸化によって得られたGOでは、C/O比の差は大幅に縮小し、欠陥密度もほとんど同じでしたが、それぞれのGOの酸化の度合いは顕著に異なっていました。また酸素含有基の構成比にも違いが確認され、例えばカルボニル基(C=O)の比率は32.0~40.6%とばらつきがありました。産出地によるこういった違いは、GOの電気化学的性質やRGOの還元効率・導電性にも明らかな差となって現れました。

同グループによる論文は、Chem. Eur. J.誌の注目論文Hot Paperに選ばれるとともに、その内容が化学ニュースサイトChemistry Viewsで紹介されました。

 
■ Chem. Eur. J.では、エディターが特に重要性を認めた論文を Hot Paperに選んでいます。
 ⇒ 最近 Hot Paper に選ばれた論文

カテゴリー: 論文 パーマリンク