<論文紹介> 水中での直接的不斉アルドール反応を進行させる人工的な金属酵素類似触媒 / 東京大・小林 修教授らが開発に成功 (Chem. Asian J. VIP)

chemistry天然の酵素には、穏和な条件下で高い反応効率や選択性を発揮するなど、人工的な触媒では実現が難しいすぐれた触媒作用を示すものがあります。そういった酵素を合成反応に用いる「生体触媒」の研究が近年活発に行われていますが、酵素の不安定性などの欠点を補うため、酵素をバイオ工学の手法によって改良するのが有力なアプローチとなっています。

しかしその一方で、天然の酵素の触媒機能を凌駕する人工化合物を創り出すことは化学者の大きな夢のひとつです。このほど東京大学大学院理学系研究科・小林 修教授らは、酵素よりもはるかに分子量が小さくシンプルな構造の金属酵素類似触媒を開発し、水中での直接的不斉アルドール反応を効率的に進行させることに成功しました。

小林教授らは、アルドール反応の触媒作用をもつ酵素「II型FBPアルドラーゼ」をモデルに、巨大分子である酵素の構造から触媒として必要不可欠な要素を取り出し、コンパクトな分子を設計・合成するというアプローチを採りました。それによって生まれた触媒は、独自に開発したキラルなN-オキシド配位子とスカンジウムトリフラート Sc(OTf)3 を組み合わせたもので、ホルムアルデヒド液を用いた直接的不斉アルドール反応を水中で進行させることができます。40℃で反応させると収率91%、60% ee でエナンチオ選択的に反応が進行したほか、高温にも強いなどすぐれた触媒能が確認されました。

酵素類似触媒の人工的な設計に新しい可能性を開くことが期待されるこの成果は、Chemistry – An Asian Journal (Chem. Asian J.) で報告され、同誌の注目論文VIP (Very Important Paper) に選ばれました。

Chemistry – An Asian Journal

■ Chem. Asian J.では、二人の査読者が特に重要性を認めた論文をVIP (Very Important Paper)に選んでいます。
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