<記事紹介> 「自分の投稿論文を自分で査読」する不正行為が発覚|台湾の大学教授が偽名を使って実行、60報の撤回へ (AGU誌編集長ブログ)

captured振動工学のジャーナル Journal of Vibration and Control で、台湾の大学教授が多数の偽名を使って査読者として登録を受け、自分自身の投稿論文を査読して有利な判定を下す詐欺的行為を働いていたことが発覚、この教授が同誌で過去4年間に発表した論文60報が撤回される事態となりました。Retraction Watchの記事 新たな学術出版不正として波紋を呼んでいるこの事件について、American Geophysical Union (AGU, アメリカ地球物理学連合) が発行するJournal of Geophysical Research: Space Physics (JGR Space Physics) の編集長Michael Liemohn氏(米ミシガン大学教授)が、自身のブログでコメントしています。

学術誌の編集長にとって今回の不正行為は、考えるだけでぞっとする悪夢のひとつだとLiemohn氏は言います。論文を急いで出版したい研究者の目に、査読者の存在が煩わしく映ることもあるのはやむをえませんが、Liemohn氏は、査読システムの裏をかこうとする行為はいずれ発覚するもので、数報の論文を通すだけのために研究者としてのキャリアを棒に振ることになりかねないと警告します。

この種の不正行為に対して、AGUのジャーナル各誌は十分な対策を講じているとLiemohn氏は考えます。最も重要なのは、各エディターが現役の科学者で、論文の著者や査読者となる人々をよく知っていることです。Liemohn氏のJGR Space Physics誌では、5人のエディターが専門分野に応じて投稿論文を担当するので、エディター自身の頭に入っている多数の研究者の中から適切な査読者を選ぶことができます。

1報の投稿論文に対して最低2人が査読することも、査読者一人だけの判断で採否が決まらないという意味で、今回のような不正に対する防御策となっています。Liemohn氏によると、2人の査読者の意見が分かれ、エディターが判断に迷う場合は、3人目・4人目の査読者に意見を求めることも厭わないそうです。

AGU各誌の投稿・査読システムGEMSに、十分な専門知識を持つ査読者のデータが多数登録され、常にアップデートされていることも重要なポイントです。論文著者が推薦する査読者候補は参考にしますが、そこで挙がった名前から実際の査読者を2人とも選ぶということは極めて稀だそうで、それによって悪意ある著者による不正な操作を困難にしています。

特定の専門分野内の多くの研究者をよく知るエディターも、良質かつ広範な査読者データベースも、一朝一夕で得られるわけではありません。そこに至る地道な営みの積み重ねが、良質な学術出版を維持していくには欠かせないことを教えてくれるのが今回の記事ではないかと思います。

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