<論文紹介> クモの毒液からヒトNaV1.7チャネルを阻害するペプチドを発見 / 慢性疼痛に対する画期的な鎮痛剤の候補化合物として期待

bjp_cover現在、多くの人々が何らかの原因で痛みが長期にわたって続く「慢性疼痛 (chronic pain)」に苦しみ、それによる経済的負担は米国だけで6千億ドルに及ぶと見積もられています。しかし、慢性疼痛に対して用いられる既存の鎮痛剤はいずれも薬効や副作用の面で難点をもつことから、より優れた鎮痛剤の開発が求められています。

豪クイーンズランド大学のGlenn King教授らのグループは、クモの毒液に含まれる成分の中から、ヒトの細胞膜にある「NaV1.7チャネル」と呼ばれるタンパク質の働きを阻害する強力な作用をもつペプチドの特定に成功しました。NaV1.7チャネルは痛覚のシグナルを脳に伝達する過程に深く関与すると考えられることから、今回発見されたペプチドは慢性疼痛に対する鎮痛剤の候補化合物として非常に有望視されます。この成果は、The British Pharmacological Society(英国薬理学会)の公式誌British Journal of Pharmacologyで報告されました。

spiderweb生まれつき痛みを感じない「先天性無痛症」という稀な遺伝性疾患の存在が知られています。その患者は、遺伝子の突然変異によって、細胞膜にあってナトリウムイオンを透過させる役割をもつNaV1.7チャネルという特定のタンパク質を欠いていることがこれまでの研究で分かりました。このことから、NaV1.7チャネルを薬剤で阻害することができれば鎮痛効果が得られると考えられ、そのような作用をもつ化合物の探索が進められてきました。

King教授らは、205種のクモの毒液からハイスループット・スクリーニングの手法によって、ヒトNaV1.7チャネルを阻害する7種類の新規なペプチドを特定し、そのうち1種が特に強力な作用をもち、安定性も高いことを確かめました。実用化に向けて今後の研究が期待されます。

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