<論文紹介> ディーゼル車への規制と技術改良で、すす微粒子の排出量は減ったが粒子が微小化、健康リスク増大の可能性も (ACIE)

欧州で人気のディーゼル車は、排出ガス規制の強化と自動車メーカーの技術改良によって、排気ガス中の粒子状物質(すす)の量はかつての旧型車より大幅に減少しました。しかし、新型車の排気ガスに含まれるすすは、健康リスクがより高いとされる細かい微粒子の割合が増えたため、健康リスクが本当に減ったのか、むしろ増えたのか判断が難しいとする論考が、Angewandte Chemie International Editionに発表されました。
 ⇒ Frank, B., Schuster, M. E., Schlögl, R. and Su, D. S. (2013), Emission of Highly Activated Soot Particulate—The Other Side of the Coin with Modern Diesel Engines . Angew. Chem. Int. Ed., 52: 2673–2677. doi: 10.1002/anie.201206093 (本文を読むにはアクセス権が必要です)

日本ではバスやトラックなどの大型商用車にほぼ限られているディーゼル車ですが、欧州では低燃費でCO2排出量もガソリン車より少ないとして一般消費者に高い人気があり、西欧諸国での新車登録台数のうちディーゼル車が約50%を占めるほどです。しかし、ディーゼル車の長年の課題は排出される黒煙で、その成分は「すす」などの粒子状物質です。環境・健康リスクが懸念されるこのような粒子状物質の排出量を減らすため、欧州では再三にわたって排出ガス規制が強化され、それに対応して各メーカーが技術改良を重ねた結果、すす微粒子の排出量は最近の新型車ではかつてより大きく減少し、ディーゼル車のクリーン化に成功したと考えられています。

ところが、今回の論考を発表した独フリッツ・ハーバー研究所の研究者らは、最近の排ガス規制に適合した新型車では、すす微粒子の排出量は減ったものの、燃焼方法の変更によって直径の短い微小な粒子の割合が高まったと指摘しています。これまでの研究で、同じすす微粒子でも、粒の細かいものの方が健康に与えるリスクが高いことが示唆されていて、微粒子の総量が減ったことによるプラス効果を相殺してしまう可能性があります。研究者らは、すす微粒子の排出量削減が環境・健康リスクにプラスマイナスどちらの影響を与えたのかは現時点で判断できず、肺がんによる死亡者数の推移などに基づく今後の研究を待つ必要があるとしています。

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