「ナノワイヤが過去最高のプロトン伝導度を達成」との報告を修正|追試で再現せず、測定ミスの可能性(Angew. Chem. Int. Ed.)

昨年12月にAngewandte Chemie International Editionに掲載された論文で、米ドレクセル大学(Drexel University)のH.-F. Ji准教授らの研究グループは、トリメシン酸とメラミンから合成したナノワイヤが5.5 S/cmという過去最高のプロトン伝導度を達成したと報告しました。燃料電池の電解質として高プロトン伝導性材料の研究開発が活発に行われている中、それまでの記録を一桁以上塗り替えるJi准教授らの報告が事実であれば大きな意味を持つはずでした。
 ⇒ Wang, H., Xu, X., Johnson, N. M., Dandala, N. K. R. and Ji, H.-F. (2011), High Proton Conductivity of Water Channels in a Highly Ordered Nanowire. Angew. Chem. Int. Ed., 50: 12538–12541. doi: 10.1002/anie.201105118 (本文を読むにはアクセス権が必要です。以下同じ)

しかし、プロトン伝導を長年研究してきたマックス・プランク固体物理研究所のKlaus-Dieter Kreuer博士らは、この報告があまりに常識に反するとして疑問を持ち、Ji准教授の協力を得て追試を行ったところ、報告されたような高いプロトン伝導度は再現しませんでした。Kreuer博士らは、その経緯をAngew. Chem. Int. Ed.の最新号でCorrespondenceとして報告しています。
 ⇒ Kreuer, K.-D. and Wohlfarth, A. (2012), Limits of Proton Conductivity. Angew. Chem. Int. Ed., 51: 10454–10456. doi: 10.1002/anie.201203887

Kreuer博士らは、Ji准教授らがプロトン伝導度を測定する際に、試料を置いたガラスに溶液の沈殿物が付着していたことによる測定ミスの可能性を指摘しています。これに対しJi准教授らは同じ号に掲載されたReplyで、実験を主導した1st authorが研究グループを去ったため、複数の装置のうちどれを当時の実験に用いたのか分からず、残された装置で追試を行ったが報告したようなプロトン伝導度は再現できなかったとして、報告の修正を表明しました。
 ⇒ Johnson, N. and Ji, H.-F. (2012), Reply: High Proton Conductivity of Water Channels in a Highly Ordered Nanowire. Angew. Chem. Int. Ed., 51: 10457–10458. doi: 10.1002/anie.201205225

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