<論文紹介> マイクロマシンが高速で患部に命中! 超音波を使ったミクロの弾丸(Angew. Chem. Int. Ed.から)

超小型の潜航艇が患者の体内を自在に動き回り、患部を直接治療する - かつてのSF映画「ミクロの決死圏」が描いたような世界ですが、映画と違ってミクロ化した人間こそ乗っていないものの、体内に潜り込んで治療を行うマイクロマシンないしナノマシンは、実現に向けて着々と開発が進められています。

そのようなマシンの開発にあたっての難題のひとつが、いかにしてマシンに十分な推進力を持たせるかという点です。化学エネルギーや電気・磁気などを使ってさまざまな試みがなされてきましたが、細胞膜を突破して組織内に入り込めるくらい強い推進力を持たせる方法は、これまで見つかっていませんでした。

このほどカリフォルニア大学サンディエゴ校の研究グループは、Angewandte Chemie International Editionに発表した論文で、超音波を使ってマイクロマシンを弾丸のように発射する方法により、これまでの記録を大幅に更新する推進力を得ることに成功したと報告しました。彼らが用いたマイクロマシンは金でコーティングされた円錐形で、内部には人体に害のない微量のパーフルオロカーボン(PFC)乳剤が格納されています。磁力でマシンを患部に誘導した後、体外からマシンに向けて超音波を伝えると、マシン内の乳剤が爆発的に気化し、銃から発射される弾丸のように強い推進力をもたらします。今回の実験では、この方法でマシンを秒速6.3m(これまでのマイクロマシンを百倍以上上回る速さ)で推進させ、腎臓組織に食い込ませることに成功したそうです。
 ⇒ Kagan, D., Benchimol, M. J., Claussen, J. C., Chuluun-Erdene, E., Esener, S. and Wang, J. (2012), Acoustic Droplet Vaporization and Propulsion of Perfluorocarbon-Loaded Microbullets for Targeted Tissue Penetration and Deformation. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201201902 (本文を読むにはアクセス権が必要です)

同研究グループは、この技術の応用例として、膀胱がん治療への利用を提案しています。膀胱がんの有力な治療法のひとつに、毒性を弱めた結核菌を注入し、意図的に患部に炎症を起こすことで免疫細胞の働きを高め、がん細胞を攻撃させる「BCG注入療法」があります。しかし弱毒化しているとはいえ結核菌を体内に入れるため、副作用に十分な注意を要します。結核菌の代わりにマイクロマシンを膀胱に打ち込むことで同じような炎症を引き起こすことができれば、副作用のリスクが少ない安全な治療が可能になると期待できます。

この論文については、化学ニュースサイトChemistry Viewsが解説記事を掲載しています。(無料公開)
 ⇒ Chemistry Views: Healing Bullets Fly Through Tissue

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