<記事紹介> Angewandte Chemieへの投稿で見つかった出版倫理違反の例(Peter Gölitz編集長 Editorial)

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データ捏造や他の論文からの剽窃(盗用)などの不正行為・出版倫理違反による論文撤回は後を絶たず、その事例をブログ Retraction Watch などで目にしている人も多いでしょう。しかし、論文不正が撤回のような形で表面化するのは全体のごく一部にすぎず、それよりはるかに多くの不正論文が、投稿時にエディターや査読者によって見抜かれ、出版に至ることなく葬られていることは疑いありません。

ドイツ化学会誌 Angewandte Chemie の Peter Gölitz編集長は、このほど発表したEditorial(巻頭言)の中で、同誌への最近の投稿論文から見つかった出版倫理違反の例として、次のようなものを挙げています。

  • 4か月前に投稿されて即リジェクトした Communication(速報)が、少しタイトルを変えただけで何の説明もなく再投稿された。著者は投稿時のチェックシートで、「この投稿論文には過去に別の版が存在したか」という質問にNoと回答していた
  • Minireview(短めの総説)が他の著者の報告を紹介する際に、元の論文から段落単位で丸ごとコピーしていた
  • 著名な教授が Highlight(注目される最新報告の紹介)を書きたいと言ってきたが、取り上げようとしている論文は教授のかつての教え子によるものだった
  • 別の Highlightは、Highlightの著者の所属機関に勤める同僚の論文を取り上げたもので、推薦された査読者は著者と個人的なつながりのある人物ばかりだった
  • 投稿された論文の共著者のうち数人が、Angewandte Chemie への投稿の4週間前に、似たような論文を別のジャーナルで発表していた

こういった例は、アメリカ・アジア・欧州などさまざまな地域の著者によって引き起こされていて、特定の国や文化には限定されないとのことです。

Gölitz編集長によると、こういった出版倫理違反が発覚するのは1年に100件ほどで、かなり多いとも言えますが、Angewandte ChemieにはCommunicationだけでも年間1万以上の投稿があることを考えると、全体の中では少数だと見ることもできます。同編集長は、ごく一部の不届き者のせいで科学者全体が疑いの目で見られる状況になっていると指摘します。その表れとして、Angewandte Chemieを含む多くのジャーナルが投稿論文を剽窃検知ソフトにかけるようになっています。

またGölitz編集長は、出版倫理は大学教育の一部として教えられる必要があり、若手研究者は早い段階でその原則を理解しておくとともに、同僚や模範となる研究者が出版倫理を実践するのをあらゆる機会に目にするべきだとしています。

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