「ガスの時代」に重要性が高まるMOF / 京都大・北川進教授がACIEにEditorialを寄稿

Credit - Chepko Danil Vitalevich/Shutterstock

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多孔性配位高分子 (Porous Coordination Polymer, PCP) または有機-金属骨格体 (Metal organic Framework, MOF) と呼ばれる多孔性材料は、化学・材料科学の分野でのホットな研究対象として多くの読者におなじみでしょう。金属イオンと有機配位子から構成され無数の細孔をもつこの新材料は、興味深い化学的・物理的性質に加えて、気体の貯蔵や分離、さらに触媒といった広い用途への応用可能性が認められています。MOF研究の世界的パイオニアとして知られる京都大学大学院工学研究科・北川進教授(物質-細胞統合システム拠点(iCeMS)拠点長)は、このほど「多孔性材料とガスの時代」と題したEditorialを Angewandte Chemie International Edition (ACIE) に寄稿し、これからの社会にとってのMOFの重要性を解説しています。

Angewandte Chemie International Edition

エネルギー資源の主力は、かつての石炭から20世紀には石油へと移りましたが、今世紀に入ると天然ガスやバイオガスのようなガス燃料への注目が高まったことから、21世紀は「ガスの時代」と称されることもあります。しかし、ガスの貯蔵には一般に大量のエネルギーや高圧・低温といった過酷な条件を必要とするため、穏和な条件下でのガスの貯蔵を可能にする材料としてMOFに期待が寄せられています。

Credit - kessudap/Shutterstock

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エネルギー問題に対してMOFが果たせる役割はそれだけに留まりません。北川教授によると、化学工業全体でのエネルギー消費の約40%が蒸留など分離・精製の工程によるもので、また世界のエネルギー生産の約15%が工業原料の分離・精製に使われています。工業原料への需要は2050年までに現在の3倍に増加すると予想されているため、分離・精製に要するエネルギーの削減が急務となっています。MOFは、活性炭やゼオライトのような従来の多孔性材料と異なり、目的とする気体分子を選択的に吸着できるよう正確な構造設計が可能で、さらに内部に官能基を導入することで目的分子の吸着・分離性能を高めることができるなど、この目的に適したすぐれた性質を備えています。

研究の急速な進展に伴い、MOFはこれまで不可能と考えられていた機能を実現できることも分かってきました。例えば、北川教授らのグループは最近、サイズや沸点などがきわめてよく似ているため分離が困難とされていた一酸化炭素 (CO) と窒素の混合ガスから、COを選択的・効率的に分離できるMOFの開発に成功しました。北川教授らは、このMOFがいったん細孔にCOを取り込むと、細孔の形を変化させてさらに多くのCOを取り込むようになるという新しい現象を発見し、self-accelerating sorption process(自己加速的な吸着プロセス)と命名しました。

今回のEditorialで北川教授は、MOFにこういった革新的な機能をもたらすメカニズムを解説するとともに、今後発展が期待される領域としてMOFとナノ粒子・有機高分子などとのハイブリッド材料や、生体膜のように一方向にのみ物質輸送を行えるMOFの開発といったテーマを紹介しています。

※ 北川教授による2004年の総説 Functional Porous Coordination Polymers は、ACIEの全論文の中でこれまでに最も多く引用された(most cited)論文となっています。(2015年4月現在)

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