<論文紹介> 米オハイオ州の小規模群発地震はシェールガス採掘に伴う廃水処理が原因か|地震記録ゼロの地域で施設の操業開始から約1年間に109回発生、最大M3.9

Journal of Geophysical Research: Solid Earth新たなエネルギー資源として注目されるシェールガスですが、採掘で生じる廃水が引き起こす水質汚染や岩盤破壊による地震の誘発を懸念する声がかねてからありました。このほど米国の地震学者Won-Young Kim氏は、オハイオ州で2011年前後に観測された一連の小規模地震について、シェールガス採掘で生じる廃水を処分するために処理施設の井戸から地下に向けて高圧をかけて注入する作業が引き起こしたものだと報告する論文を発表しました。Kim氏の論文は、The American Geophysical Union (AGU, アメリカ地球物理学連合)の公式誌 Journal of Geophysical Research: Solid Earth に掲載されました。

 ⇒ Kim, W.-Y. (2013), Induced seismicity associated with fluid injection into a deep well in Youngstown, Ohio, J. Geophys. Res. Solid Earth, 118, 3506–3518, doi:10.1002/jgrb.50247.
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地中の頁岩(シェール)層に存在するシェールガスは、当初は採取が困難で採算に合わないと見られてきましたが、水・薬品などの混合物を高圧で地層に注入して亀裂を引き起こす水圧破砕法(フラッキング)が2000年代に開発されてから、採算性が向上し生産が急速に活発化しました。特に埋蔵量が多い米国では、世界のエネルギー需給に影響を与えるほどのシェールガス増産を実現し、「シェールガス革命」と呼ばれるブームを引き起こしています。

一連の地震が発生したオハイオ州ヤングスタウンの周辺地域はもともと地質が安定し、2010年まで地震の発生が一度も記録されたことがありませんでした。同地域にシェールガスの採掘場自体はありませんが、隣のペンシルバニア州にある採掘場で水圧破砕によって発生する大量の廃水の処分を引き受けることになり、廃水を深さ2~3 kmの地層に向けて高圧で注入し地下に戻すための井戸が2010年12月末に操業を開始しました。それから小規模地震の発生が相次ぎ、2011年1月から2012年2月までの14か月間にM0.4以上の地震が計109回観測されました。そのうち最大規模のものは、2011年12月に発生したM3.9の地震でした。なお廃水注入のためにかけられた圧力は最大で17.2 MPa、フル稼働時の注入量はおよそ350立方m/日でした。

今回の論文を執筆したコロンビア大学ラモント・ドハティ地球観測所の研究員Kim氏は、地震記録や処理施設の操業記録を分析した結果、震源地が当初は注入井戸近くに集中し、次第に西向きに移動していることや、祝日などで井戸での高圧注入作業が一時的に中断した後に地震の発生が治まる傾向が見られることなどから、一連の地震は井戸からの高圧での廃水注入によって誘発されたものと結論付けています。

■ Wileyプレスリリース: How Shale Fracking Led to an Ohio Town’s First One Hundred Earthquakes (August 19, 2013)

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