<記事紹介> 有機合成化学で過去数十年に覆された10の「常識」 - ブレイクスルーの過程を検証(Angew. Chem. Int. Ed.から)

有機合成の分野で現在注目されているホットな研究テーマの中には、かつての化学界で「あり得ない、非常識」として退けられていたものが珍しくありません。そういった「非常識」が、ある時期に起こったブレイクスルーを契機に、時には劇的に、また時にはゆっくりと「常識」に変化していった過程を検証する興味深いエッセイが、Angewandte Chemie International Editionに掲載されました。
 ⇒ Nugent, W. A. (2012), “Black Swan Events” in Organic Synthesis . Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201202348
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現在Vertex Pharmaceuticals社で上級科学フェローを務める著者が、デュポン中央研究所で化学者としてのキャリアをスタートさせたのは1976年のことです。著者は、その当時に化学界で広く信じられていた10の「常識」を例に取り上げて、それぞれが研究の発展とともにどのように覆されていったかを振り返ります。取り上げられるかつての「常識」は、次のようなものです。

  • 金化合物は触媒として不活性で役立たない
  • 不斉水素化反応には2座キレート配位子が必要
  • パラジウム触媒によるクロスカップリングはC-N結合形成には不向き
  • オレフィン・メタセシスは有機合成に役立ちそうにない
  • 酵素反応には水が溶媒として不可欠  など

エッセイの表題中にある”Black Swan events”とは、1697年にオーストラリアで見つかるまで存在が知られていなかった「黒い白鳥」にちなみ、「あり得ないと思われてきた衝撃的な出来事」のことを指します。著者によると、研究の流れを大きく変えたブレイクスルーとなる論文の発表に十年、あるいはそれ以上先立って、それを予兆するような、常識を裏切る発見が報告されていた例が多くあります。しかし、その発見が著名な化学誌に載らなかったり、その意義が理解されるには早すぎたりしたために、後になって脚光を浴びるまで多くの化学者から注目されないか全く知られないままになっていたのです。

著者は、今回の検証から得られる教訓として、研究の動向や未開拓の領域、また将来自分の研究に影響するかもしれない他分野の発見を知るために、最新の文献を幅広く体系的に読むことを勧めます。その一方で、データベースを使って自分の研究に直接関係する論文だけを読むという最近の傾向に警鐘を鳴らしています。

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