スマートフォンの新製品がどれも似て見える理由は? 80年前の「ホテリングの法則」(Significance Magazineから)

最近、家電店に行くと、「夏モデル新発売!」ということでスマートフォン売場が特に賑わっていますね。売場には各メーカーが出した多数の新製品が並んでいますが…ぱっと見ただけでは、どの機種もすごく似ているように見えませんか? 価格もサイズも、数字上の性能も機能も、デザインも色のバリエーションも、細かい違いこそあれ各機種おおむね共通しています。メーカーの評判や特定の機能の有無を下調べして、この機種と決めてから買いに行く人もいるでしょうが、予備知識なしにふらっと買いに行くと、製品同士の違いが分からずどれを選んでいいか途方に暮れてしまうことでしょう。スマートフォンに限らず、同じジャンルで似通った製品が多数店頭に並んでいて、「もっと各社が違いのはっきりした製品を出してくれれば、選択肢が広がっていいのに」と思った経験のある方は多いはずです。激しく競争しているはずのメーカーがお互いに似たような製品を出してしまうのは、何か理由があるのでしょうか?

統計学のウェブマガジンSignificance Magazineによると、80年以上も前にこの問題を考えて答を出したのが、アメリカの経済学者・統計学者ハロルド・ホテリング(Harold Hotelling)です。
 ⇒ Significance Magazine: Any color you want so long as it is black

ホテリングは、1929年に発表した論文の中で、「地理的立地」の問題を考察しました。上の記事で示されている例に従うと、同じ道路沿いで2つの屋台が全く同じ価格・同じ品質のホットドッグを売っていて、お客は少しでも近いほうの屋台で買うとします。この場合、通りの1/4と3/4の位置(長さ1kmの通りであれば、片方の端から250mと750mの位置)で2軒がそれぞれ営業するのが最も合理的です。お客は通りのどこにいても、最大で250m歩けばどちらかの屋台でホットドッグを買えます。

しかし、それぞれの店主はこの場所のまま満足しません。片方の屋台が通りの中間点(500mの位置)に少し寄ると、ライバル屋台のお客の一部を奪うことができます。(上のリンク先の記事でわかりやすく図示されています。)負けてはなるかと、もう一つの屋台も中間点に向かって移動します。双方がこれを繰り返していくと…最終的には通りの中間点に、同じ価格で同じホットドッグを売る2軒の屋台が肩を並べ、通りの端にいるお客は500m歩かないとホットドッグを買えないという不便な状況になってしまいます。確かに、ハンバーガーや牛丼、コンビニなどのライバルチェーンが隣り合って店を構えていて、「もっと離れて店を出せばいいのに」と思うことはありますよね。

このように競合業者どうしが似通った製品やサービスを提供する傾向を持つことは、「ホテリングの法則」と呼ばれます。同じような現象は、商業に限らずさまざまな分野で見られ、ホテリング自身、イデオロギーが異なるライバル政党の主張が次第に中道寄りで似てくる現象を例に挙げています。

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