<論文紹介> 四級立体中心の構築に有力な新手法 / Pd触媒による脱炭酸的脱水素化反応を用いたα-ビニルカルボニル化合物合成法をGrubbs・Stoltz両教授らが報告 (ACIE VIP)

炭素原子に4つの異なる炭素置換基が結合した四級立体中心は多くの天然物に見られる重要な構造ですが、その構築は現在も非常に困難とされていて、多くの化学者が挑む課題となっています。そのための有力なアプローチであるカルボニル化合物のα-ビニル化反応は、これまでにさまざまな手法が開発されてきましたが、いずれも制約を抱えているため、よりすぐれた方法が求められていました。

カリフォルニア工科大学のRobert H. Grubbs教授(2005年ノーベル化学賞受賞)、Brian M. Stoltz教授らのグループは、先に開発したパラジウム触媒によるδ-オキソカルボン酸の脱炭酸的脱水素化反応が、カルボニル化合物のα-ビニル化反応にも応用できることを発見しました。反応の適用範囲を確かめるための実験では、骨格や官能基の異なるδ-オキソカルボン酸を出発物質として、四級立体中心を有するさまざまなα-ビニルカルボニル化合物を高収率で得ることに成功しました。

さらに同グループは、この反応を利用して天然物 (−)-aspewentin A, B, C (カビの一種 Aspergillus wentii から得られる、四級立体中心を含むノルジテルペン) のエナンチオ選択的全合成に初めて成功し、今回開発された手法の有効性を示しました。他の天然物合成への応用をめざす研究も進行中とのことで、今後の報告が待たれます。

この成果を報告する論文はAngewandte Chemie International Editionに掲載されるとともに、同誌の注目論文VIPに選ばれました。

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