<記事紹介> 世界的に増える「論文コピペ」、海外ジャーナル編集長の対応は? 悪質度に応じて処分、「出入り禁止」から単なる修正まで

Software Testing, Verification and Reliability「STAP細胞」関連論文をめぐって「論文のコピペ(コピー&ペースト)」とも呼ばれる論文盗用・剽窃(英語では”plagiarism”)疑惑がクローズアップされ、その対策として学生に対する倫理教育やコピペ発見ソフトの導入といった動きが高まっているのはご存知の通りです。

この問題が明らかになる過程では、「IntroductionやMaterial and Method(マテメソ)は誰が書いても同じだから、他の文献からコピペしても問題ない」と擁護する声が上がり、それに対する賛否がネット上などで議論を呼びました。このことが示すように、論文盗用問題は白黒の基準が誰の目にも明らかなわけではなく、研究者コミュニティの中でも認識が分かれるグレーゾーンがあることは否定できません。

Software Testing, Verification and Reliability (STVR) 誌の共同編集長Jeff Offutt教授(米ジョージ・メイソン大学)は、このほど同誌に寄稿したEditorialで、さまざまな形態の論文盗用を挙げてそれらに対する見解を示しました。STVR誌自体はソフトウェア技術の専門誌ですが、この記事は分野を問わない普遍的な内容となっています。国際的なジャーナルの編集現場が盗用問題をどのようにとらえ対処しているかを知るための参考として、ご一読をおすすめします。

Offutt教授が他のジャーナル編集者に聞くと、異口同音に「盗用は増えている」と言うそうです。同教授はその理由として、ソフトウェア(コピペ発見ツール)の発達で盗用が見つけやすくなったことと、
研究活動が世界各国に広がるにつれて、盗用の是非や「アィディアの独自性」といった概念についての文化の違いが目立つようになったことを挙げています。STVR誌では、年に10~20報の投稿を、盗用を理由にリジェクトしています。

同教授によると、盗用にはいくつかの種類・段階があります。最もあからさまなのは、他の著者の論文を丸ごとコピペしてからわずかに改変して投稿するComplete copyingです。同教授が最近経験した例では、1978年にマイナーな雑誌に載った論文が盗用され、いくつかのパラグラフとレファレンスを追加しただけの新しい論文がSTVR誌に投稿されました。このケースでは、投稿を手にしたエディターがたまたま元の論文を読んでいたためすぐに発覚しました。Offutt教授は、盗用した著者の所属学科長に報告するとともに、著者をブラックリストに載せ、将来にわたって投稿禁止とする処分を下しました。論文丸ごとではなくても、元の論文のKey results(主要な結果)を盗用するのも、同じように悪質な例です。

それらとは程度がやや異なる盗用として、同教授はCopying auxiliary text(補助的なテキストのコピー)を挙げています。BackgroundやIntroductionのようなセクションで、英語の苦手な著者が他の論文からうまい言い回しを借用するというのが典型的な例で、同教授が指導する外国人の学生は、それも盗用に当たると指摘されると驚くことがあるそうです。STVR誌では、そのような盗用に対しては「論文はリジェクトするが著者をブラックリストには載せない」という形で処分を若干軽くしています。

それに似たケースとして、Improper quoting(不適切な引用)があります。他の文献からの引用なのに引用符で囲まない、引用ソースを示さないというものです。これも一種の盗用で修正は必須ですが、修正後の論文をアクセプトする場合もあるそうです。

このように、一口に盗用と言っても、明らかに悪意によるものから軽微で意図的でないものまでさまざまです。ジャーナル編集部はケースごとの悪質度を考慮して妥当な対応をめざしていますが、現実には判断に悩む場合もありそうです。

同教授は、盗用について教わった経験のない若者に対しては教員や査読者・編集者がきちんと教育する責任があるとする一方、研究者にとって “reputation”(評判)は最も重要な財産のひとつで、盗用が一度発覚すればたいていは研究者生命を断たれることを指摘してこの記事を結んでいます。

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