<論文紹介> 火に入れても燃えない無機ペーパー|ヒドロキシアパタイト(HAP)ナノワイヤから合成に成功(Chem. Eur. J.)

paper今日のように文書作成や通信の電子化が進んでも、私たちの身の回りには相変わらず紙が溢れています。紙にはさまざまな利点がありますが、特に何十年・何百年も残したいような重要な文書こそ紙で残したいと思う人は多いでしょう。しかし長期保存の手段としての紙には、いわゆる日焼けによる変色や焼失のリスクといった難点があり、決して理想的とはいえません。

こういった紙の欠点を克服するために、従来とは異なる材料、特に無機材料から紙を作る試みが行われてきましたが、紙らしい柔軟性に欠けるなどの問題がなかなか解決できませんでした。このほど中国科学院上海珪酸塩研究所の研究グループは、高い柔軟性と不燃性を兼ね備えた無機ペーパーの開発に成功し、Chemistry - A European Journalで報告しました。

今回開発された無機ペーパーは、リン酸カルシウムの一種であるヒドロキシアパタイト(HAP)のナノワイヤ(長さ数十μm)を原料としています。このナノワイヤをエタノール中で撹拌すると無機繊維質が生じ、それを使って紙が作られます。

inorganic paperこの無機ペーパーは、通常の紙と同じように白色で、ペンでの書き込みや印刷ができ、また丸めたり折り畳んだりできる柔軟性を備えています。さらにこの無機ペーパーは、耐久性や不燃性にも優れ、アルコールランプの火に5分間入れたままにしても、何の変化も生じないほどです。(右写真) 後世に残したい重要な記録の保存用として、実際に活躍する日が近いかもしれません。

また同グループでは、無機ペーパーの別の用途として、流出原油のような有機系汚染物質の吸収材としての利用も考えています。吸収した汚染物質を加熱によって回収した後も、熱に強い無機ペーパーは変質しないため何度も再利用することができると期待されます。

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