累計視聴数4,100万回、YouTubeで大人気の化学動画”Periodic Table of Videos”の制作グループが、これまでの経験と成功の秘訣を語る(ACIE Editorial)

Angewandte Chemie International EditionYouTubeでPeriodic Table of Videosという一連の化学動画を見たことがありますか? Periodic Table of Videosは、2008年に英ノッティンガム大学の化学者らと映像ジャーナリストのBrady Haran氏によって始められたプロジェクトです。その中心になったMartyn Poliakoff教授(日本語版Wikipediaに項目があるんですね)とHaran氏が、Angewandte Chemie international Edition (ACIE)にEditorialを寄稿し、これまでの経験と、そこから学んだポイントを語っています。

 ⇒ Haran, B. and Poliakoff, M. (2013), Conveying the Excitement of Chemistry on YouTube. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201304861 icon_free(無料公開)

Periodic Table of Videosは、当初はその名前の通り「周期表にある118種類の元素一つひとつについて短編動画を作ろう」というところからスタートしました。天然に存在しないような超重元素について語れる内容などそんなにないのでは、といった懸念をよそに、関係者の熱意により、2008年6月の制作開始からわずか5週間で、すべての元素の動画を撮り終えてしまったそうです。

一連の動画を専用サイト(周期表中の元素をクリックすると動画が始まります)YouTubeで公開したところ、予想以上に大きな反響を得ました。そのためプロジェクトは継続が決まり、Periodic Table of Videosの名前を「ブランド」として引き継ぎながら、周期表から離れてさまざまな化学動画を制作・投稿してきました。2013年5月までの約5年間に公開された動画は478本、累計視聴数は4,100万回に達し、YouTubeチャンネルの購読者は25万人に上るそうです。

その動画の楽しさは、上記の専用サイトやYouTubeで目についた作品をいくつかクリックすればお分かりになると思いますが、例えば文中でも言及されている“Can you drink Heavy Water?”(重水は飲めるか?)という動画がこちら。(これはPart 1。Part 2はこちら

もう一つは今年5月に公開されたばかりの作品で、「エベレストでお湯を沸かす」

アイディア・目の付けどころの秀逸さと、日常生活の中で体験できないことを試し、立ち入れない場所に踏み込むという非日常性が作品を面白くしていることが分かります。著者らは、それらに加えて、台本や学習の狙いの設定といった教育用ビデオの伝統的なしきたりから離れて、制作者が作りたいように作ることで、視聴者に「これまでのものとは違う」という新鮮さを感じさせているのだろうと分析しています。

視聴者から受け取る反応の詳細については原文をご覧いただくとして、学校の先生がこういった動画を授業に使って、それを見た子どもたちが化学に興味を持つようになるなど、若い世代に化学の楽しさを伝えるうえで彼らの動画はすぐれた効果を上げているようです。

著者らは、これまでの体験から学んだ教訓として、

  • このプロジェクトに関わった化学者らはそれまでに動画制作の経験が全くなかったことが示すように、経験不足だからといって躊躇する必要はない
  • 参加している化学者らは、いずれも並行して旺盛な研究活動を続けており、参加者が多くの時間を犠牲にしなくてもこういったプロジェクトが成り立つ
  • そのためには、Haran氏のような映像制作のプロの協力を得ることが重要

といったことを挙げています。化学の楽しさ・化学への情熱を次の世代に伝えていきたいと考える方、特にソーシャルメディアを使った試みを考えている方に参考になるEditorialと思います。

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