<論文紹介> 全合成の進化と化学・生物学・医学へのインパクト / K. C. ニコラウ教授による総説 (Isr. J. Chem.)

天然物全合成の世界的権威として名高いK. C. ニコラウ教授(米ライス大学)がこのほどIsrael Journal of Chemistryで発表した総説は、全合成研究の過程で得られたさまざまな発見や新たに開発された合成テクニックがもたらした進歩と、それが生物医学研究に与えた影響を論じる内容となっています。

Israel Journal of Chemistry

ニコラウ教授はこの総説で、彼の研究室でこれまでに全合成を手がけてきた Δ12-Prostaglandin J3, Shishijimicin A, Tubulysins といった抗がん活性物質や、全合成の究極の標的ともいわれる巨大分子マイトトキシン (Maitotoxin) を例に取り上げ、そこに見られる合成戦略とテクニックの進歩を提示します。

ニコラウ教授によるマイトトキシン全合成は、この分子を構成する32の環のうち未完成なのはわずか2つを残すのみというところまで迫りながら、大学での基礎研究に対する予算削減のために滞っています。同教授はこの総説を、アカデミックな研究は何よりも基礎研究に主眼を置き、合成のアートと科学の進歩それ自体を目的とすべきで、生物医学や材料科学への応用はそこから派生的に生まれるものだという主張で締めくくっています。

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