<論文紹介> 発光するフォーク! スプレー噴霧で自在な形の発光体を作り出す「発光電気化学セル」技術 (Advanced Materials)

Light-Emitting Fork右写真の黄色く光るフォークは、金でできているわけでも蛍光塗料を塗ったわけでもありません。表面に発光物質と電極の薄膜を作ることによって、フォーク自体が有機EL照明に近い発光体になっているのです。

有機EL照明(OLED)は、発光層を電極でサンドイッチ状にはさみ電圧をかけることで発光します。電球のような「点発光」と異なる「面発光」で、省電力・薄型化が可能といった性質を持つことから、次世代の照明として期待されています。しかし、これまで主流となっているOLEDの製造法は、基板上に発光層の膜を形成するのに真空蒸着を用い、また微細な埃の粒が混入しないようクリーンルームで作業を行うため、大規模な設備投資が必要でコスト高につながり、普及を妨げる一因になってきました。

一方、スウェーデンのウメオ大学(Umeå University)のLudvig Edman教授らが研究を主導してきた「発光電気化学セル」(light-emitting electrochemical cell = LEC) は、OLEDに近い発光原理によりますが、OLEDが一般的に電極を含めて5層構造をとるのに対してLECは3層ですむという違いがあります。Edman教授らのグループと、この技術を実用化する目的で設立されたベンチャー企業LunaLECは共同で、液状の発光物質や電極材料をエアブラシでスプレー噴霧して基板上に成膜する噴霧焼結(spray-sintering)によるLEC製造法の開発に成功し、Advanced Materials誌で報告しました。

この新しい製造法は、埃の混入による欠陥が生じにくく、真空設備やクリーンルームを必要としません。エアブラシによる噴霧という簡便な方法で、短時間かつ効率的に発光体の製造が可能になるため、製造コストの引き下げが期待できます。フレキシブルな基板や複雑な3D形状の物体に適用できるのも利点で、これまでになかった照明デコレーションの実現につながるかもしれません。

上の写真のフォークは、この技術のデモンストレーションのために作られたものです。ステンレス製のフォーク自体が基板と電極(アノード)を兼ねるので、発光層ともう一方の電極(カソード)を表面にスプレーで成膜することで全体がLECとなり、通電するとこのように発光します。ここでは黄色の発光物質を使っていますが、他のどんな色も実現可能とのことです。このフォークがあれば暗闇の中でも食事が可能、という実用を意図したものではないようですが、面白い見せ方ですね。

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