ココ・シャネルとドイツの化学者オットー・レーレンの接点とは? (ChemCatChem表紙)

ChemCatChem触媒化学の専門誌ChemCatChemの最新号(Volume 6, Issue 2, February 2014)は、“Otto Roelen meets Coco Chanel”と題して、なかなか趣向を凝らした表紙(右図)を掲載しています。Otto Roelen(オットー・レーレン, 1897-1993)はドイツの化学者、一方Coco Chanel(ココ・シャネル, 1883-1971)は言うまでもなく高級ブランド”シャネル”を創業したフランスのファッションデザイナーです。一見畑違いのこの2人、実際は生前に出会ったことはないそうですが、今回2人の名前が並ぶことになった接点はいったい何でしょうか?

この表紙の基になったミナス・ジェライス国立大学(ブラジル)Elena V. Gusevskaya教授らによる論文Hydroformylation in the Realm of Scentsは、ヒドロホルミル化(hydroformylation)反応を用いた香水・香料成分の合成に関する総説です。ヒドロホルミル化は、アルケンに水素と一酸化炭素を付加させてアルデヒドを合成する反応で、その開発者がオットー・レーレンです(1938年)。レーレンは、カイザー・ウィルヘルム研究所のフランツ・フィッシャー、ハンス・トロプシュとともに液体炭化水素の合成法であるフィッシャー・トロプシュ法の研究に携わり、その過程でヒドロホルミル化反応を発見しました。

一方、マリリン・モンローの有名な言葉でも知られる香水「シャネルの5番 (Chanel No. 5)」は、1920年代初めに調香師エルネスト・ボーが用意した10種類の試作品の香りを試したココ・シャネルが、5番目のものを選んだことで誕生しました。この5番目の試作品は、用意された10種類の中で最も多量のアルデヒドを含むもので、独特の匂いを持つアルデヒドの配合がもたらした斬新な香りが評価され、香水として空前のヒットにつながりました。ココ・シャネルとレーレンとのつながりは「アルデヒド」にあったというわけです。

アルデヒドはそれ自体が香水の成分として使われるだけでなく、そこから得られるヘミアセタール、アセタール、カルボン酸、アルコールなども香水の重要な原料となります。Gusevskaya教授らの総説は、香水・香料の原料の合成に役立つヒドロホルミル化反応のテクニックを多数集めて整理したもので、関連の研究者・学生の方々にご一読をおすすめします。

  •  論文  ⇒ Gusevskaya, E. V., Jiménez-Pinto, J. and Börner, A. (2014), Hydroformylation in the Realm of Scents. ChemCatChem, 6: 382–411. doi: 10.1002/cctc.201300474 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
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