著者が語るWiley新刊: 第6回 尾島 巌先生 “Catalytic Asymmetric Synthesis, 3rd Edition”

「著者が語るWiley新刊」第6回では、ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の尾島 巌先生に、昨年出版された好評の編書 Catalytic Asymmetric Synthesis, 3rd Edition をご紹介いただきます。

Catalytic Asymmetric Synthesis, 3rd Edition
Iwao Ojima (Editor)
ISBN: 978-0-470-17577-4
Hardcover / 998 pages / February 2010
価格 US$185.00

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本書 Catalytic Asymmetric Synthesis の初版・第2版は、それぞれ1993年と2000年に出版され、いずれも産学両界で、大学院生から研究者まで幅広い層の読者から好評を博した。初版が出版されたのは、ちょうどアメリカ食品医薬品局(Food & Drug Administration = FDA)がキラル医薬品についての方針を打ち出し、”chirotechnology”(キラル技術)という言葉が生まれ、またキラル技術産業が英米で勃興してきた頃だった。その後、予測したように不斉合成化学と技術の目覚ましい進歩が見られたため、2000年の第2版では新しく報告された多くの反応を追加するとともに、初版の章で歴史的意義を持つものはそのまま残した。2001年には、W. Knowles, K. B. Sharpless, そして野依良治教授が、触媒的不斉合成の研究における業績によってノーベル化学賞を受賞した。ノーベル化学賞は十分に成熟した研究領域での業績に対して与えられるのが普通だが、この時は活発に発展を続けている研究分野が選ばれた。そのため、第2版の出版から8年後には、合成化学の研究者のために新しい改訂版が必要である事が明らかになり、Wileyからの依頼でこの第3版の編集に着手することになった。

第3版は、第2版と異なり以下のような方針で編集した。即ち第2版の内容は現在でも極めて有用であるので、第2版は「触媒的不斉合成の古典」としてそのまま存続し、第3版は2000年以降のこの分野における最も重要な進展を中心にすべて新しい内容の本とすることにした。第3版ではこの分野の目覚しい発展を網羅する事を意図せず、有機合成化学・医薬化学・材料化学分野の研究者・大学院生にとって最も必要とされる反応を選んだ。たとえば、この第3版では、触媒的不斉合成への新しいアプローチに関する6つの章を導入した。 非在来型の反応媒体および条件, 有機触媒、ルイス酸とブレンステッド酸、C-H活性化、炭素-ヘテロ原子結合反応、酵素触媒反応 (Chapters 1-6) がそれらである。不斉合成における酵素触媒反応の重要性と有用性を有機合成化学者が広く認識するべき時が来ている。さらに、2005年ノーベル化学賞につながったメタセシス反応も、触媒的不斉合成に極めて重要な反応として、炭素-炭素結合形成反応に関するセクション中に新しい一章 (Chapter 8E)を追加した。加えて、以下の各章をアップデートした。すなわち水素化 (Chapter 7), 炭素-炭素結合形成反応 (共役付加、アリル化反応、カルボメタル化と環化反応、遷移金属触媒によるエン反応と環状付加) (Chapter 8)、ヒドロシリル化 (Chapter 9)、カルボニル化 (Chapter 10)、酸化 (Chapter 11)、, 不斉増幅と自己触媒反応(Chapter 12)、重合反応 (Chapter 13) の各章である。こういった反応やプロセスが、生物学・薬化学・農芸化学・材料化学・ナノ科学など各方面で、高光学活性および光学的に純粋な化合物の効率的な合成に役立つことは言うまでもない。

各章の執筆者はいずれも世界的にこの分野を先導する研究者で、各主題に関する基本原理、最新の知見と今後の発展の可能性を体系的に解説している。本書が有機合成化学・医薬化学・材料化学の広範な読者に読まれ、とりわけ当分野に今後革新的な戦略で貢献するであろう若い世代の研究者に役立ててもらうことを心から願っている。

ニューヨーク州立ストーニーブルック大学化学部・首席教授
尾島 巌

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