シーラカンスは「生きている化石」ではなかった? フランスの進化生物学者が従来の常識に異議

シーラカンスといえば、何億年も昔から進化せずに、ほとんど変わらない姿のまま現在まで生き延びている『生きている化石』の代表格として知られています。しかし、フランスの進化生物学者Didier CasaneとPatrick Laurentiは、このほど「なぜシーラカンスは『生きている化石』ではないのか」と題した論文をBioEssays誌に発表し、この常識に異議を唱えています。

 ⇒ Casane, D. and Laurenti, P. (2013), Why coelacanths are not ‘living fossils’. Bioessays. doi: 10.1002/bies.201200145
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一般にはあまり知られていませんが、生物学的に「シーラカンス」は特定の種を指す名前ではなく、生物分類で「シーラカンス目(もく)に属するさまざまな魚類の総称です。1938年に初めて発見されたいわゆる「シーラカンス」は、シーラカンス目の中のシーラカンス科ラティメリア属に属するLatimeria chalumnaeという種です。後の1997年に、同じラティメリア属の別種Latimeria menadoensis(インドネシア・シーラカンス)の生存が発見され、現生種はこれらの2種ということになります。これら2種が、一般には「シーラカンス」と呼ばれていますが、生物学上の「シーラカンス目」には、他にも化石として発見された多くの絶滅種の存在が知られています。

この論文の著者らは、シーラカンスの進化に関するこれまでの研究を再検討し、現生種は約4億年前のデボン紀からほとんど進化せずに同じ形態を保つ「生きている化石」だとする従来の見方を、以下のような理由で否定しています。

  • シーラカンスの現生種の遺伝子を調査した結果、個体間で遺伝的変異が少ないことが報告されている。「生きている化石」支持派の研究者は、これを現生種の分子的進化の速度がほかの生物より遅いことの証拠と解釈している。しかし遺伝的変異が少ないのは、生存する個体数が少なく変異体が排除されやすいのが理由と考えるほうが自然。
  • 現生種のゲノムの進化速度が特別に遅いことを裏付けるデータはない。そのように主張する研究者は、「生きている化石」説が正しいという思い込みから、データを誤って解釈している。
  • シーラカンスの現生種そのものの化石は発見されていない。現生種と化石種を比較すると、体長・体型・ひれの形・骨格など形態上の違いがかなり大きく(例えば現生種の体長が1.5mに達するのに対し、系統的に最も近いマクロポマ属の化石種は体長60cm)、何億年も前の化石とほとんど形態が変わっていないとは言えない。

シーラカンスは、現生種とそっくり同じ形の化石が存在するから「生きている化石」なのだと何となく思い込んでいましたが、実際はそんな単純な話ではないのですね。「生きている化石」支持派からの反論によって議論がさらに深まるのか、注目されます。

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