<記事紹介> ナノテクノロジーはここから始まった? ジグモンディの「限外顕微鏡」発明から100年

普通の顕微鏡では見えない微粒子を観察するための「限外顕微鏡」をオーストリア生まれ・ドイツの化学者リヒャルト・ジグモンディ(Richard Zsigmondy, 1865–1929) が発明し特許を得たのは、今から100年前の1912年のことです。Angewandte Chemie International Editionの最新号に、この発明の意義を解説する科学史記事が掲載されました。
 ⇒ Mappes, T., Jahr, N., Csaki, A., Vogler, N., Popp, J. and Fritzsche, W. (2012), The Invention of Immersion Ultramicroscopy in 1912—The Birth of Nanotechnology? . Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201204688 (本文を読むにはアクセス権が必要です)

さまざまな美しい色で発色する古代ローマのガラスは昔から多くの人々を魅了してきましたが、その色がガラス中に分散して含まれる金の微粒子の働きによるものと分かるまでには、17世紀まで待たなくてはなりませんでした。19世紀半ばには、高名なマイケル・ファラデーがさらに研究を進め、ガラスの色は金微粒子の大きさによって決まると説明しました。しかしファラデー自身は、当時の装置で金微粒子の大きさまで知ることはできませんでした。

ファラデーから約半世紀を経て、ドイツのイェーナでガラスを研究していたジグモンディは、同地のカール・ツァイス社に勤めるHenry Siedentopfの協力を得て、光のビームを試料中の微粒子に当てて散乱した光を観察する限外顕微鏡を開発しました。それによって、予め分かっている試料中の金の濃度と、観察された金微粒子の数から、微粒子の平均サイズを計算することができるようになりました。ジグモンディは、この顕微鏡を使って進めたコロイドの研究により、1925年にノーベル化学賞を受賞しました。さらに、その翌年の1926年には、限外顕微鏡を駆使して研究を行ったフランスのペラン (Jean Baptiste Perrin)とスウェーデンのスヴェドベリ(Theodor Svedberg)がそれぞれノーベル物理学賞、化学賞を受賞しており、当時の科学にジグモンディの顕微鏡が与えたインパクトを物語っています。

ジグモンディは、青・紫・黄・緑・赤に発色する金微粒子を観察し、その大きさを50 – 77 nmと推計しました。また、微粒子の大きさと色との間に相関が見られないことから、色に影響を与えるのは微粒子の形状であると予測しました。今と違って、当時の科学雑誌にはカラー写真を載せられなかったため、ジグモンディが顕微鏡で見た色は、彼の文章による描写からしか知ることができません。今回、記事の著者らが当時の限外顕微鏡と最新の透過型電子顕微鏡を使って検証したところ、ジグモンディが予想した微粒子の大きさや形、また彼が記述した色がいずれも正しかったことが確認されました。著者らは、電子顕微鏡によって微粒子の微細構造が解明される遥か前の時代に、ジグモンディらが自分たちの実験結果を正しく解釈していた事実に驚きを示すとともに、微粒子のサイズや形状、コーティングといった条件を統制することを可能にした限外顕微鏡の発明を、現代ナノテクノロジーの出発点と位置付けてもいいのではないか、としています。

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