<論文紹介> 「低さ」の世界記録争い? 同じ組成式で最もエネルギーの低い「ギネス分子」の探索 (The Chemical Record)

Guinness molecule独ゲッティンゲン大学のMartin A. Suhm教授は、今年2月に発表したAngewandte Chemie International EditionのEditorialで、ある特定の組成式で表せるさまざまな分子のうち最もエネルギーの低い構造をとるものを、世界記録を集めた本にちなんで“Guinness molecule”(ギネス分子)と呼ぶことを提唱しました。例えば組成式C2H4O2においては、グリコールアルデヒド HOCH2-CHO でも酢酸 CH3COOH でもなく、メタン CH4 と二酸化炭素 CO2 の錯体がギネス分子になります。

同教授は、このほどThe Chemical Record誌に発表した論文でその考えをさらに展開し、糖質を表す組成式CnH2nOn (n=1, 2, 3, 4 および ∞) におけるギネス分子について詳しく考察しました。量子力学上の零点エネルギ一を考慮に入れて、計算によってそれぞれのnの値に対するギネス分子を特定した結果、一般にギネス分子になるのは糖質ではなく小分子の錯体であることが明らかになりました。

Suhm教授は、こういった計算には他領域への応用につながる可能性もあると指摘します。例えばCO2回収・貯蔵のための材料にはどのような構造が最も安定的か、あるいはさまざまな化合物の宇宙での存在量の違いがあるのはなぜかなどを考えるのに役立ちます。

化学ニュースサイト Chemistry Views の記事によると、Suhm教授は今回の論文のもとになったギネス分子探索のための計算を、学部1年生10人が参加した教育プロジェクトの中で行ったそうです。ほかの組成式でもギネス分子を探してみると、意外な発見があるかもしれません。

The Chemical Record

  •  論文  ⇒ Altnöder, J., Krüger, K., Borodin, D., Reuter, L., Rohleder, D., Hecker, F., Schulz, R. A., Nguyen, X. T., Preiß, H., Eckhoff, M., Levien, M. and Suhm, M. A. (2014), The Guinness Molecules for the Carbohydrate Formula. Chem. Rec.. doi: 10.1002/tcr.201402059 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
  •  Chemistry Viewsの紹介記事  Gold Medals for Guinness Molecules (October 28, 2014, Chemistry Views)
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