名古屋大学・伊丹健一郎教授らの論文がChemistry – An Asian Journalの月間最多アクセス論文に(2017年1月)

Wiley-VCHは2月19日、各国化学会と共同出版する各ジャーナルで2017年1月に最も多くのアクセスを集めた論文(Most Accessed Article)を発表しました。そのうちChemistry – An Asian Journalでは、名古屋大学大学院理学研究科の伊丹 健一郎教授らによる非対称シアニン色素の蛍光特性と構造の相関についての論文が最多アクセス論文となりました。

Chemistry – An Asian Journal

この論文の内容については、伊丹研究室のサイトで日本語での解説を読むことができます。

なお、この論文をはじめ、Wiley-VCH各ジャーナルの2017年1月の最多アクセス論文は、化学ニュースサイトChemistry Viewsで紹介されています。

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「ポスト真実」の時代に、環境科学者の役割は? / 海洋生態学者ジェーン・ルブチェンコ博士の寄稿に大きな反響

1月の就任直後から移民政策などで物議を醸しているトランプ米大統領ですが、気候変動・地球温暖化を真っ向から否定し、オバマ前大統領が進めた環境政策を大きく転換させようとしている点も見逃せません。そうした中で、高名な海洋生態学者であるジェーン・ルブチェンコ博士(オレゴン州立大学特別教授)は、事実が軽視される「ポスト真実」の時代の中での環境科学者のあり方を提言する論説(guest editorial)を、米国生態学会(ESA)が発行するFrontiers in Ecology and the Environment誌に寄稿しました。この論説は、英語圏を中心にTwitterで拡散されるなど、大きな反響を呼んでいます。

Frontiers in Ecology and the Environment

ルブチェンコ博士は、海洋生態学のパイオニアとして活躍し、世界で最も多く引用される科学者の一人とされる一方、米国生態学会、全米科学振興協会(AAAS)、国際科学会議(ICSU)の各会長など要職を歴任してきました。オバマ前大統領の政権下では、政府の環境調査研究機関である米国海洋大気局(NOAA)の局長に招かれ、1万人以上のスタッフを擁する大組織を率いました。また科学的公正や科学コミュニケーションなど、科学者の社会的責任に関わる分野での貢献でも知られています。

今回の論説でルブチェンコ博士は、気候変動を「でっち上げ(hoax)」と呼ぶ大統領を米国民が選んだだけでなく、事実の無視や、他者や市民的対話への敬意の欠如が米国でも世界中でも明らかになっていると指摘します。折しも、「真実のように感じられる」感情に訴える言説が客観的事実よりも重視される風潮をさす”post-truth”(ポスト真実)という言葉が流行語になり、Oxford English Dictionaryはこの語を2016年の “Word of the Year”(今年の言葉)に選びました。そのような「ポスト真実」の世界は、科学はより良い政策決定のために信頼性の高い情報を提供をできるという従来の世界観に挑戦するものだと、同博士は警鐘を鳴らします。

その上で同博士は、このような時代にこそ環境科学者には社会とのより密接な関わりが求められるとして、科学界に向けて次のような提言を行っています。

  • 科学の価値を分かりやすい言葉で社会に訴える
  • 再生可能エネルギー、漁業改革などの分野での成功例への理解を広める
  • 社会との関わりをめざす科学者にインセンティブを与えられるよう、報奨制度を見直す

環境科学以外の分野の科学者にも多くの示唆を与える論説として、広くご一読をおすすめします。

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2017年1月のワイリー理工書ベストセラーはこちら!

日本で1月に最もよく売れたWiley(Wiley-Blackwell, Wiley-VCHを含む)の理工書トップ5をご紹介します。タイトルまたは表紙画像をクリックすると、目次やサンプル章(Read an Excerpt)など、詳しい内容をご覧いただけます。

Introduction to Computational Chemistry, 3rd Edition1位 Introduction to Computational Chemistry, 3rd Edition
 Frank Jensen
 ISBN: 978-1-118-82599-0
 Paperback / 664 pages / December 2016

計算化学の好評教科書を約10年ぶりに改訂した第3版。近年の当分野の新展開を反映して、coarse grained force field methods, empirically modified DFT methodsといった主題を取り入れるなど記述の大幅な見直しを行った結果、全体の30%が新しい内容となっています。

INCOSE Systems Engineering Handbook2位 INCOSE Systems Engineering Handbook: A Guide for System Life Cycle Processes and Activities, 4th Edition
 INCOSE
 ISBN: 978-1-118-99940-0
 Paperback / 304 pages / June 2015

システムエンジニアのための国際的組織INCOSEが編纂するこのハンドブックは、システムエンジニアがSEプロセスを実践する上で押さえておくべき知識をまとめた必須の教科書・参考書です。

Geometry of the Generalized Geodesic Flow and Inverse Spectral Problems, 2nd Edition3位 Geometry of the Generalized Geodesic Flow and Inverse Spectral Problems, 2nd Edition
 Vesselin M. Petkov, Luchezar N. Stoyanov
 ISBN: 978-1-119-10766-8
 Hardcover / 432 pages / November 2016

幾何学上の逆スペクトル・逆散乱問題を扱う1992年出版の古典的名著を、その後の発展を踏まえて大幅に改訂。

OLED Display Fundamentals and Applications4位 OLED Display Fundamentals and Applications
 Takatoshi Tsujimura
 ISBN: 978-1-118-14051-2
 Hardcover / 256 pages / June 2012

OLEDディスプレイの設計・製造の基礎から応用までを、照明・フレキシブルディスプレイ・大画面TVなど多様な製品を例に取り上げて幅広く網羅します。著者の辻村 隆俊氏はコニカミノルタ社のOLED事業部長です。

Multiphase Lattice Boltzmann Methods: Theory and Application5位 Multiphase Lattice Boltzmann Methods: Theory and Application
 Haibo Huang, Michael Sukop, Xiyun Lu
 ISBN: 978-1-118-97133-8
 Hardcover / 392 pages / June 2015

多相流の流体解析に近年広く用いられる格子ボルツマン法の理論的基礎と、地球科学・工学といった分野への応用を分かりやすく解説します。


ご注文は最寄りの書店・ネット書店で承ります。

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有機化学レファレンスワーク(オンライン事典)を使いこなす - 海外の著名化学者が語る活用法をまとめたホワイトペーパーを公開

Chemistry MRW有機化学分野の研究者や学生の皆さんは、研究のかたわら多くのジャーナル論文を読み、また時には教科書など日本語・英語の本にも目を通すことでしょう。しかし、図書館の書架で見かける “Encyclopedia of ~”などと題された分厚い事典や、そのオンライン版には、あまりなじみがないという方が意外に多いのではないでしょうか。

Wileyは、こういった主題別の事典類を「レファレンスワーク」と呼んでいます。有機化学分野でのWileyの代表的なレファレンスワークとしては、以下のようなものがあります。

レファレンスワークの多くは、現在電子化されてオンライン事典として広く利用されています。皆さんの大学や所属機関でも、有機化学の主要なオンライン事典をいくつか図書館で契約しているところが多いと思います。そのようなレファレンスワークの利用価値はどういうところにあるでしょうか?

  • レファレンスワークの記事は、ある主題についての概要を知り、重要な先行研究を効率よく特定するのを助けてくれます。新しい研究課題に取り組む前や、レポートや論文を執筆するときに、関連する多数の論文や単行本を探す前に、レファレンスワークの記事に目を通して概要を把握しておくことは非常に有効で、研究の効率化に役立つでしょう。
  • またレファレンスワークのそれぞれの記事は、その主題を熟知した専門家によって執筆され、さらに編集委員会によるチェックを経てから出版されるため、きわめて信頼性の高い内容となっています。

Chemistry_MRWWileyはこの度、有機化学レファレンスワークの活用法を多くの方に知っていただく目的で、12ページのホワイトペーパーを公開しました。(右表紙) 英カーディフ大学のThoma Wirth教授ら海外の著名な化学者が、日々の研究の中でレファレンスワークをどのように役立てているかを語った生の声をまとめています。

このホワイトペーパーは、下のリンク先ページでお名前・メールアドレスなどの情報を登録し、Wileyから注目論文・新刊書などのメール配信を受け取ることに同意いただくだけで、無料でダウンロードできます。日々の忙しい研究活動の中で、文献調査の効率化を図りたい方に特におすすめします。

■ ホワイトペーパーを入手する

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京都工芸繊維大・清水 正毅教授らの論文を動画で紹介するビデオ・アブストラクトが公開される

京都工芸繊維大学 分子化学系・清水 正毅教授らは、有機蛍光材料2,5-ジアミノテレフタル酸ジチオエステルの特性を報告する論文を、昨年11月に European Journal of Organic Chemistry (EurJOC) 誌で発表しました。このほど、この論文の内容を紹介する動画 (ビデオ・アブストラクト)が、動画サイトvimeoで公開されました。

European Journal of Organic Chemistry

清水教授らの論文は、昨年7月に当ブログでご紹介した ビデオ・アブストラクトを無償制作するキャンペーン で制作対象に選ばれました。このキャンペーンは、EurJOC とその姉妹誌 European Journal of Inorganic Chemistry (EurJIC) に掲載された論文の中から各10報を選び、両誌をWiley-VCHと共同出版する欧州各国化学会の連合体ChemPubSoc Europeがスポンサーとなって、動画を無償で制作するものです。

ビデオ・アブストラクトは、研究成果を視覚的に、分かりやすく多くの人に向けて発信するのに効果を発揮することが期待されます。今回のキャンペーンで用意された各10報の枠は、残りわずかですがまだ空きがあるとのことですので、両誌で論文の出版予定がある方は奮ってご応募下さい。詳細は 前のブログ記事 でご覧いただけます。

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Macromolecular Bioscience誌から片岡 一則教授65歳記念特集号

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Macromolecular Bioscience誌の2017年1月号(Volume 17, Issue 1)は、片岡 一則・東京大学政策ビジョン研究センター特任教授(公益財団法人川崎市産業振興財団ナノ医療イノベーションセンター・センター長)の65歳記念特集号として発行されました。

片岡教授はバイオマテリアル研究のパイオニアとして長年にわたり活躍し、特に高分子・超分子化学を利用したドラッグデリバリーなどナノ医療の分野で数々の先駆的な業績を残してきました。これまでに500報以上の査読済み論文を発表し、また100件以上の特許を取得した同教授は、多くの栄誉ある賞によって顕彰されるとともに、日本バイオマテリアル学会・高分子学会などの会長を務め、同分野の発展に貢献しています。

片岡教授の65歳の誕生日を記念する今回の特集号は、東京大学大学院工学系研究科のカブラル オラシオ准教授・宮田 完二郎准教授・長田 健介特任准教授の三氏を客員編集長に迎えて編纂されたもので、片岡教授が多大なインパクトを与えた研究主題を扱う原著論文・総説12報を掲載しています。同号は、2017年12月末まで無料公開される予定です。

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2016年12月のワイリー理工書ベストセラーはこちら! あのノーベル化学賞受賞者の新著もランクイン

日本で12月に最もよく売れたWiley(Wiley-Blackwell, Wiley-VCHを含む)の理工書トップ5をご紹介します。タイトルまたは表紙画像をクリックすると、目次やサンプル章(Read an Excerpt)など、詳しい内容をご覧いただけます。

Physics and Technology of Crystalline Oxide Semiconductor CAAC-IGZO1位 Physics and Technology of Crystalline Oxide Semiconductor CAAC-IGZO: Application to LSI
 Shunpei Yamazaki (Editor), Masahiro Fujita (Editor)
 ISBN: 978-1-119-24734-0
 Hardcover / 376 pages / December 2016

半導体技術に関する世界的イノベーターとして知られる山﨑 舜平氏(株式会社半導体エネルギー研究所代表取締役)と藤田 昌宏・東京大学工学研究科教授を共編者とする本書は、次世代の半導体材料として期待される結晶性酸化物半導体 CAAC-IGZO の物性とLSI技術への応用を多角的に論じ、ユニークな洞察を提供します。

Low-profile Natural and Metamaterial Antennas2位 Low-profile Natural and Metamaterial Antennas: Analysis Methods and Applications
 Hisamatsu Nakano
 ISBN: 978-1-118-85979-7
 Hardcover / 304 pages / September 2016

アンテナ工学の世界的研究者として知られる中野 久松・法政大学名誉教授の新著となる本書は、さまざまな種類の新規な素子による低姿勢アンテナを取り上げています。特に、従来の材料では実現できないユニークな特性をもつメタマテリアルのアンテナ技術への応用については、重点的に論じられます。

Simulation and the Monte Carlo Method, 3rd Edition3位 Simulation and the Monte Carlo Method, 3rd Edition
 Reuven Y. Rubinstein, Dirk P. Kroese
 ISBN: 978-1-118-63216-1
 Hardcover / 432 pages / October 2016

モンテカルロ・シミュレーションの理論と手法・応用に関する定評ある教科書の最新改訂版です。近年の研究の展開を反映して、スプリッティング法と確率的列挙法に関する新章を追加し、併せて各章の記述を改訂しています。

The Nature of the Mechanical Bond4位 The Nature of the Mechanical Bond: From Molecules to Machines
 Carson J. Bruns, J. Fraser Stoddart
 ISBN: 978-1-119-04400-0
 Hardcover / 786 pages / November 2016

「分子マシンの設計と合成」への貢献により2006年ノーベル化学賞を共同受賞した米ノースウェスタン大学のジェイムズ・フレイザー・ストッダート教授 (James Fraser Stoddart)の新著です。分子マシンの実現のために、カテナン・ロタキサンのように、パーツが化学結合ではなく機械的結合によって結び付いた構造を持つ「インターロック分子」が注目されています。このインターロック分子の研究における第一人者であるストッダート教授が執筆した本書は、最新の研究成果に基づき、インターロック分子の合成法とその性質、医薬品・光学・電子材料など各方面への応用の可能性までを、豊富な図版とともに幅広く解説します。当分野の基本文献として広くおすすめします。

Theory of Elasticity and Stress Concentration5位 Theory of Elasticity and Stress Concentration
 Yukitaka Murakami
 ISBN: 978-1-119-27409-4
 Hardcover / 472 pages / October 2016

村上 敬宜・九州大学名誉教授による本書は、弾性と応力集中の理論と工学的応用を、高度な数学を用いることなく解説します。


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<論文紹介> 全合成の進化と化学・生物学・医学へのインパクト / K. C. ニコラウ教授による総説 (Isr. J. Chem.)

天然物全合成の世界的権威として名高いK. C. ニコラウ教授(米ライス大学)がこのほどIsrael Journal of Chemistryで発表した総説は、全合成研究の過程で得られたさまざまな発見や新たに開発された合成テクニックがもたらした進歩と、それが生物医学研究に与えた影響を論じる内容となっています。

Israel Journal of Chemistry

ニコラウ教授はこの総説で、彼の研究室でこれまでに全合成を手がけてきた Δ12-Prostaglandin J3, Shishijimicin A, Tubulysins といった抗がん活性物質や、全合成の究極の標的ともいわれる巨大分子マイトトキシン (Maitotoxin) を例に取り上げ、そこに見られる合成戦略とテクニックの進歩を提示します。

ニコラウ教授によるマイトトキシン全合成は、この分子を構成する32の環のうち未完成なのはわずか2つを残すのみというところまで迫りながら、大学での基礎研究に対する予算削減のために滞っています。同教授はこの総説を、アカデミックな研究は何よりも基礎研究に主眼を置き、合成のアートと科学の進歩それ自体を目的とすべきで、生物医学や材料科学への応用はそこから派生的に生まれるものだという主張で締めくくっています。

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不倫サイトからハッカー集団が流出させた個人情報をソースにした、異例の地理学論文

Credit - sanjagrujic/Shutterstock

Credit – sanjagrujic/Shutterstock

既婚者が不倫相手を探すための出会い系サイト(不倫サイト)からハッカー集団が流出させた登録者データを利用して、サイト利用者の傾向を分析した異例の論文がAmerican Geographical Society (AGS, アメリカ地理学協会)の公式誌 Geographical Review に掲載され、反響を呼んでいます。

カナダに本社をもち世界的に活動する大手不倫サイト Ashley Madison (アシュレイ・マディソン) は、2015年にハッカー集団によって登録者データを盗まれ、3千万人以上の個人情報をネット上に流出させてしまいました。流出したデータには、同サイトの登録ユーザーの名前やメールアドレスに加えて、有料サービスの利用に使われたクレジットカードの課金履歴まで含まれていました。

今回の論文を書いた米トレド大学の研究者らは、そのデータから、クレジットカードの利用履歴がある米国居住の男性約70万人を抽出し、請求先住所を基にして地理的分布を調べました。その上で、各地域の平均所得や人種別比率、信仰の熱心さ、2012年大統領選挙での投票先などの属性との相関を分析しました。

その結果、所得の高い地域ほどサイト利用者数・平均課金額とも高く、不倫サイトの利用が一種の「ぜいたく品」となっていることが示されました。信仰に熱心な地域では利用者数・課金額とも低く、信仰心が不倫への歯止めになっていることを示唆しましたが、大統領選挙の結果に基づく政治的傾向とは有意な相関が見られませんでした。

著者らは、今回のような異例のデータソースを利用した研究が、これまで未開拓だった領域の解明につながる可能性に期待を寄せる一方、他の研究者に対して、対象となる人々のプライバシーを侵さないよう十分な配慮を呼びかけています。

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<記事紹介> 合成香料ニトロムスクの化学史 (Eur. J. Org. Chem.)

Credit - Svetlana Lukienko/Shutterstock

Credit – Svetlana Lukienko/Shutterstock

香水の成分として知られるムスクは、麝香(じゃこう)とも呼ばれ、もともとは雄のジャコウジカの分泌物から得られました。ムスクは香料や生薬として古代から用いられてきましたが、その高い人気に対して、一頭のジャコウジカから少量しか採れない稀少性のため、非常に高価なものでした。そのため欧州では、早くも18世紀から、天然ムスクに代わる合成ムスクの開発に向けての研究が始まりました。

合成ムスクにはいくつかの種類がありますが、その中でも特に歴史が古く、20世紀に広く使用された「ニトロムスク」についての化学史エッセイが、 European Journal of Organic Chemistry に掲載されました。

European Journal of Organic Chemistry

ニトロムスクは、一般には1888年にドイツの化学者 Albert Baur が開発したのが最初とされています。しかし今回のエッセイによると、ムスク香を有しニトロ基を含む化合物は、18世紀半ばに Andreas Sigismund Marggraf が初めて合成に成功し、その後も何人もの化学者が報告しています。しかし、それらの化合物は、どういう訳か天然ムスクの代用として香料に使用された形跡がなく、また構造決定にも至りませんでした。

1881年、ドイツの化学者 Werner Kelbe は、自ら合成したニトロムスクの構造決定に初めて成功しましたが、彼はそれを論文で発表したのみでした。Kelbe の教え子だった Baur は、師の研究を引き継いで、後に「ムスクバウア」と呼ばれることになる類縁化合物を開発する一方、Kelbe とは異なり商才を発揮しました。彼は論文の発表前に特許を取得するとともに、素早く香料メーカーと契約を交わし、ムスクバウアの商業化を実現したのです。その結果、Baur はニトロムスク開発の先駆者として、化学史に名前を残すことになりました。

ムスクバウアに続いて、ムスクキシロール、ムスクケトンなどのニトロムスクが開発され、天然ムスクの安価な代用として20世紀に隆盛を迎えます。しかし、1980年ごろから有害性や環境中の残留性が相次いで報告されたことから、各国でニトロムスクの使用禁止の動きが広まりました。現在は、商用化されたニトロムスク6種のうち、安全とされるムスクケトンだけが使用を認められています。

こういったニトロムスクの歴史を、豊富なサイドストーリーとともに語るこのエッセイは、化学史および香料化学に関心を持つ読者には、興味深い読み物となるのではないでしょうか。

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