ACIEなどのWileyジャーナルで論文を読むとき「Enhanced PDF」を選ぶ3つの理由

最近、Angewandte Chemie International Edition (ACIE)などのWileyジャーナルで、論文をPDFで読もうとしたとき、見慣れないポップアップメッセージ(下図)を目にして「何だこれ?」と面食らったことはありませんか?

先に当ブログの記事でお知らせした通り、Wileyでは、ACIE, Advanced Materialsおよびその姉妹誌を含む理工学分野のジャーナル109誌で、Laptiva社の文献リーダーReadCube Web Readerへの対応を開始しました。これらのジャーナルでは、論文をPDFで読むためにリンクをクリックすると、上のように、Standard PDFとEnhanced PDFの2つの表示フォーマットから好きなほうを選ぶようにとのメッセージが表示されます。

しかし、Enhanced PDFとは何なのか、また何のメリットがあるのかよく分からないので、使い慣れたStandard PDFを選んでいる方も多いのではないでしょうか。実際に使ってみると、Enhanced PDFには特に難しいところはなく、むしろあえて選ぶだけの十分な利点があることがお分かりいただけるはずです。そこで今回は、Enhanced PDFをお勧めする3つの理由をお教えしたいと思います。

試しに、野依良治先生が不斉合成研究におけるセレンデピティ(偶然による発見)について論じたエッセイ”Facts are the Enemy of Truth”(無料公開)をPDFで読んでみましょう。下からリンクしているAbstractのページで、リンクをクリックして下さい。上のようなポップアップ画面が表示されるはずです。
 ⇒ Noyori, R. (2013), Facts are the Enemy of Truth—Reflections on Serendipitous Discovery and Unforeseen Developments in Asymmetric Catalysis. Angew. Chem. Int. Ed., 52: 79–92. doi: 10.1002/anie.201205537

従来のStandard PDFと新しいEnhanced PDFの表示を上下に並べてみました。本文の表示のされ方は全く同じで優劣がつきませんが、Enhanced PDFでは画面の左にメニュー、右にreferenceが追加されています。

さて、本題の「Enhanced PDFを選ぶ理由」です。

 1. reference(引用文献)を参照しやすい 

Enhanced PDFの便利さが一番分かりやすいのはおそらくこの点で、これだけを理由にEnhanced PDFを使ってもいいと思う方も多いでしょう。従来のStandard PDFでは、本文中にreferenceを示す番号があっても、誰のどのような文献が引用されているかを論文末尾のreferenceまで見に行く必要がありました。referenceに移動して、また本文の元の場所に戻ってくるのは面倒で、下手をすればどこを読んでいたのか見失ってしまうかもしれません。Enhanced PDFでは、画面の右列にreferenceが常に表示されていますので、本文を読みながら引用文献の情報をその場で確認でき、必要に応じて引用されている論文へのリンクを辿ることが可能です。

 2. 「Altmetric」で、論文に対するネット上の反応が分かる 

野依先生のエッセイのように注目度の高い論文は、ウェブ上のニュースサイトで取り上げられたり、ブログやTwitter, Facebookでユーザーによって言及されたりします。Enhanced PDFでは、画面左の「Altmetric」にネットでの注目度を示す指標Altmetric Scoreが表示され(右図)、スコアの数字をクリックすると、その論文に言及したネットニュースやツイートなどを参照することができます。今回の例では、Chem-Stationさんのツイートが見つかりますね(下図)。そういった記事やユーザーの反応が、論文の内容の理解を助けたり、また新しい視点を提供してくれるかもしれません。

 3. マーキングやコメントを保存できる(ReadCube Desktopとの連携) 

この機能を利用するには、お使いになるPCに無料ソフトReadCube Desktopをインストールし、ReadCubeのアカウントを取得しておく必要があります。その点で、上の2つに比べると少しだけ上級者向けの機能かもしれませんが、最初に一回だけ行えばいい作業なので心配には及びません。 Enhanced PDFで蛍光ペンでのマーキングやコメントの書き込みを加えた論文は、ReadCube Desktopに保存して、後で参照することができます。

それだけでなく、ReadCube Desktopは、無料ソフトながら使いやすく高機能な文献管理ツールとして利用することができ、さらに保存した論文の傾向を読み取って関連論文を推薦してくれる“Recommendation”のようにユニークな機能を備えています。(Chem-Stationさんのこの記事が詳しく解説しています)まずはマーキングとコメントの保存を手始めに、ReadCube Desktopのいろんな機能を試してみてはいかがでしょうか。

今回Wileyのジャーナルで始まったEnhanced PDFでの論文の提供は、現在の109誌を皮切りに対象を順次拡大していきます。2013年前半中にはWiley Online Libraryで提供中の1,500誌以上のジャーナルならびにオンライン・レファレンスワーク(オンライン事典)のすべてが対応する予定ですので、ご期待下さい。

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