読み応え十分! Angewandte Chemieを通して見る過去125年の化学史(同誌の創刊125周年記念エッセイ)


1888年に発刊したドイツ化学会の公式誌Angewandte Chemieの創刊125周年を記念して、チューリッヒ工科大学(ETH Zurich)のFrançois Diederich教授が、同誌の発展と、その背景としての化学史に関するエッセイを寄稿しました。約30頁にわたって、過去のドイツや世界の化学界についての興味深いエピソードやデータが多数盛り込まれ、非常に読み応えがあります。
 ⇒ Diederich, F. (2013), 125 Years of Chemistry in the Mirror of “Angewandte”. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201300056
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Angewandte Chemieの誕生より早く、当時のドイツ化学会(Deutsche Chemische Gesellschaft = DChG)は1868年に学会誌Berichte der Deutschen Chemischen Gesellschaftを創刊していました。これとは別に、1887年に技術者を中心とする団体the German Society for Applied Chemistryが発足し、その機関誌としてZeitschrift fuer die chemische Industrie(化学工業雑誌)が発刊されました。同誌が翌1888年にZeitschrift fuer angewandte Chemie(応用化学雑誌)と改称されたのが、Angewandte Chemieの始まりです。(両団体は1949年に合併し、現在のドイツ化学会 Gesellschaft Deutscher Chemiker = GDChとなる)

その母体と雑誌名が示すように、創刊当初のAngewandte Chemieは応用・技術志向が強く、アドルフ・フォン・バイヤーやエミール・フィッシャーといった当時のドイツを代表する化学者が論文を発表するような雑誌ではなかったそうです。その後同誌は規模・対象領域とも拡大していき、次第に基礎的な研究も掲載するようになりました。1900年にはアンモニア合成の「ハーバー・ボッシュ法」で知られるフリッツ・ハーバーが同誌で論文を発表しましたが、後にノーベル賞を受賞することになる化学者の論文が同誌に載ったのは、これが初めてでした。(ハーバーは1918年ノーベル化学賞受賞)

同誌は、第一次・第二次大戦におけるドイツの敗戦、その間のナチの台頭という混乱を経て、戦後の発展期を迎えることになります。1949年に、米国科学アカデミーを代表してマックス・プランクの追悼記事を寄せたのは、かのアルバート・アインシュタインでした。

1962年には、同誌の国際化につながる英語版Angewandte Chemie International Edition in English(のちにAngewandte Chemie International Editionと改称)が創刊され、元のドイツ語版と並行して出版されるようになりました。しかし、実際にドイツ以外から多くの論文が集まるようになるのは、現在もEditor-in-Chiefを務めるPeter Goelitzが1982年に就任してからのことでした。同誌に掲載されたcommunicationのうち、ドイツ国外から寄稿されたものの割合は、1986年にわずか26%しかなかったのが、1995年には65%、2012年には89%へと拡大しました。

その間のさまざまな試行錯誤のひとつとして、1982年からAngewandte Chemie Supplementという別冊が発行されるようになりました。これは、communicationの全文を本誌に代わって掲載するもので、一方の本誌では、communicationは長めのアブストラクトだけが掲載されました。この試みは不評で、早くも1984年に中止されたそうです。また1986年には、フロッピーディスクでの論文投稿が始まりました。

Angewandte Chemieの長い歴史を通じて、「特集号」が発行されたことはきわめて稀ですが、その数少ない一つに1990年のBASF創業125周年特集号があります。これには、ジョージ・ホワイトサイズ教授のWhat Will Chemistry Do in the Next Twenty Years?など興味深い寄稿が収録されています。

Angewandte Chemieで多くの論文を発表した化学者のランキング(期間:1946年~2012年10月)も掲載されていて、第1位はK. C. Nicolaou教授の177報でした。このほかにも、読みどころの多い充実した内容のエッセイとなっていますので、ぜひご一読をお勧めします。

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