老年医学における大脳白質病変の最新知見を掲載、日本老年学会英文誌から特別号出版 【無料公開中】

A new horizon of cerebral white matter hyperintensity in geriatric medicine日本老年医学会の公式英文誌、Geriatrics & Gerontology International から老年医学における大脳白質病変の危険因子、臨床的意義に関する最新の知見を系統的に整理した特別号が出版されました。櫻井孝先生(国立長寿医療研究センター もの忘れセンター長)により、下記ご紹介頂きましたので是非ご一読ください。

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国立長寿医療研究センター 櫻井 孝 先生によるご紹介

老年医学における大脳白質病変

老年医学における最大の課題は老年症候群である。老年症候群はGeriatric Giantとも呼ばれ、高齢者に接するうえでの最初の重要な手がかりとなる。特に後期高齢者になって急増する老年症候群の予防は、健康寿命の伸延に直接つながる重要な課題である。
高齢者医療では、身体疾患の通常の医学的アプローチに加えて、生活機能からみた評価を行う。例えば、高齢者糖尿病では、糖尿病の指標の管理のみならず、歩行機能、認知機能、排尿機能、うつ等を評価し、さらに「料理は、買い物はできるか」といったADLへの配慮を行うことで、活きた療養計画を立案することができる。これらの老年症候群は、すべて大脳白質病変との関連が指摘されている症状・症候である。白質病変を予防することで、多くの老年症候群を根っこから治療することができるかも知れない。

大脳白質病変はアジア人に多く、日本人の健常人では50歳代から増加する。白質病変は脳小血管病に分類され、多くは脳虚血性病変にもとづく。年齢、高血圧、喫煙が危険因子として確立しており、糖尿病、脂質異常症、炎症、参加ストレス、睡眠障害等がリスク要因として提唱されている。欧州で行われたLeukoaraiosis And DISability (LADIS) studyでは、白質病変がADLの低下、認知障害、うつ、歩行障害、排尿障害と関連することが示された。私どもの研究でも、高齢者の転倒、つまずき、めまい・ふらつき、しびれ、尿失禁、ADL低下などの老年症候群は白質病変と関連していた。

MRIの世界的な普及とともに、白質病変への関心は急速に広がっている。しかし、臨床の現場において、大脳白質病変の理解が浸透しているとは言えない。その理由として、白質病変が高度に認められても、症状がきわめて軽微である例が存在することがある。病変と症状との対応は明らかではなく、白質病変の部位やサイズ、あるいは連絡線維の障害程度が重要かもしれない。また白質病変を簡便に評価する方法もいまだ確立されていない。目視法、コンピュータシステムを用いた白質病変の体積測定が行なわれているが、いずれに一長一短がある。また前向き介入試験で白質病変が抑制できたとする証左もいまだ少ない。

そこで、Geriatrics & Gerontology Internationalの本特集号では、白質病変の危険因子、臨床的意義に関する最新の知見を系統的に整理した。本特集号を読んで、白質病変の臨床的特性が深く理解され、個々の臨床例において、新たな見方が浸透することを期待したい。

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