自転車競技におけるエリスロポエチン(EPO)ドーピングで運動能力向上を示す科学的根拠なく、健康を害するリスクが明らかに

エリスロポエチン(EPO)は運動能力を向上させると考えられており、摂取すると不公平性が生じるためスポーツ界からドーピングと見なされ、服用が禁止されています。しかし、この度英国薬理学会の公式誌British Journal of Clinical Pharmacologyに掲載されたシステマティック・レビューによると、EPOの摂取でサイクリングの運動能力が上がる科学的根拠はなく、一方EPOを利用することで摂取者の健康と生命がリスクにさらされるという説には根拠があることが明らかになりました。

自転車競技は人気のあるスポーツですが、ここ数十年の間、ドーピング疑惑問題が尽きません。例えば、ツール・ド・フランスで7冠を達成したランス・アームストロングもEPO薬物利用で米国反ドーピング機関(USADA)により、自転車競技からの永久追放の処分を科されています。

筆頭研究者であるCohen氏は「選手や彼らの医療スタッフはEPOが運動能力の向上に役立つと考えているが、実際にトップサイクリストがEPOを服用した際に運動能力が向上したかどうか検証した質の高い研究は存在しない」と指摘しています。

その一方で、EPOの害については十分な根拠があります。EPOは赤血球の生成を促進し、血液を濃くするため、血栓症などの危険があることが報告されています。血栓ができると血流が妨げられ、酸素運搬が滞り、細胞が死亡することで組織に害を及ぼします。特に心臓や脳に血栓ができると心臓発作や脳梗塞に至ることがあります。通常EPOは貧血を治療するために利用されていますが、この場合は副作用が発生しないか、細心の注意が払われます。

「運動能力向上に効果があるとされている薬物の実際の効果を検証する、質の高い研究がさらに必要です。もしこれらの薬物に効果がないことが判明すれば、選手たちの健康が守られ、また競技の結果に対する信頼性が向上します」とCohen氏は語っています。

プレスリリース原文(英語)
EPO Doping in Elite Cycling: No Evidence of Benefit, But High Risk of Harm

この研究成果を報告する論文は、British Journal of Clinical Pharmacology誌で発表され、現在無料公開中です。
*当論文は現在Accepted Articleとして、校正前の受領された原文の状態で先行公開されています。

Erythropoietin doping in cycling: Lack of evidence for efficacy and a negative risk–benefit
J A A C Heuberger, J M Cohen Tervaert, et.al

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