「ポスト真実」の時代に、環境科学者の役割は? / 海洋生態学者ジェーン・ルブチェンコ博士の寄稿に大きな反響

1月の就任直後から移民政策などで物議を醸しているトランプ米大統領ですが、気候変動・地球温暖化を真っ向から否定し、オバマ前大統領が進めた環境政策を大きく転換させようとしている点も見逃せません。そうした中で、高名な海洋生態学者であるジェーン・ルブチェンコ博士(オレゴン州立大学特別教授)は、事実が軽視される「ポスト真実」の時代の中での環境科学者のあり方を提言する論説(guest editorial)を、米国生態学会(ESA)が発行するFrontiers in Ecology and the Environment誌に寄稿しました。この論説は、英語圏を中心にTwitterで拡散されるなど、大きな反響を呼んでいます。

Frontiers in Ecology and the Environment

ルブチェンコ博士は、海洋生態学のパイオニアとして活躍し、世界で最も多く引用される科学者の一人とされる一方、米国生態学会、全米科学振興協会(AAAS)、国際科学会議(ICSU)の各会長など要職を歴任してきました。オバマ前大統領の政権下では、政府の環境調査研究機関である米国海洋大気局(NOAA)の局長に招かれ、1万人以上のスタッフを擁する大組織を率いました。また科学的公正や科学コミュニケーションなど、科学者の社会的責任に関わる分野での貢献でも知られています。

今回の論説でルブチェンコ博士は、気候変動を「でっち上げ(hoax)」と呼ぶ大統領を米国民が選んだだけでなく、事実の無視や、他者や市民的対話への敬意の欠如が米国でも世界中でも明らかになっていると指摘します。折しも、「真実のように感じられる」感情に訴える言説が客観的事実よりも重視される風潮をさす”post-truth”(ポスト真実)という言葉が流行語になり、Oxford English Dictionaryはこの語を2016年の “Word of the Year”(今年の言葉)に選びました。そのような「ポスト真実」の世界は、科学はより良い政策決定のために信頼性の高い情報を提供をできるという従来の世界観に挑戦するものだと、同博士は警鐘を鳴らします。

その上で同博士は、このような時代にこそ環境科学者には社会とのより密接な関わりが求められるとして、科学界に向けて次のような提言を行っています。

  • 科学の価値を分かりやすい言葉で社会に訴える
  • 再生可能エネルギー、漁業改革などの分野での成功例への理解を広める
  • 社会との関わりをめざす科学者にインセンティブを与えられるよう、報奨制度を見直す

環境科学以外の分野の科学者にも多くの示唆を与える論説として、広くご一読をおすすめします。

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