<論文紹介> 超微細技術が生み出すナノアート・マイクロアートの世界 (Advanced Materials・総説)

皆さんはナノアートやマイクロアートという言葉をご存知でしょうか。ナノメートル(nm = 10億分の1メートル)ないしはマイクロメートル(μm = 100万分の1メートル)単位の、肉眼では見えないほど小さなサイズのアート作品を指します。ハーバードメディカルスクールのSeok-Hyun Yun准教授らはこのほど、このナノアート・マイクロアートを主題にしたユニークな総説をAdvanced Materials誌で発表しました。

Advanced Materials

  •  論文を読む  Yetisen, A. K., Coskun, A. F., England, G., Cho, S., Butt, H., Hurwitz, J., Kolle, M., Khademhosseini, A., Hart, A. J., Folch, A. and Yun, S. H. (2015), Art on the Nanoscale and Beyond. Adv. Mater.. doi:10.1002/adma.201502382 (本文を読むにはアクセス権が必要です)

Yun准教授らによると、マイクロアートの端緒になったのは、1970年代に半導体業界で広まったチップグラフィティ(チップアート)でした。当時の半導体メーカーでは、マイクロチップの開発者が偽造を防ぐ目的と遊び心から、回路の微細な配線パターンの中にキャラクターなどの図柄を潜ませることが流行しました。このチップグラフィティは、1980年代半ばになると、米国でチップの偽造を禁じる法律が施行されたため実用的な目的を失ったことや、チップにエラーを引き起こすリスクがあることなどが理由で衰退しました。

Credit - Kelly Sillaste/Getty Images

Credit – Kelly Sillaste/Getty Images

その後、超微細技術の発展とともにさまざまなナノアート・マイクロアートの技法が生み出されていきます。この総説では、バイオや化学分野で使われるマイクロ流体デバイスの流路に着色した水を流して図柄を作るマイクロ流体アートや、半導体デバイスの回路パターンを基板に転写するリソグラフィー技術を用いたアート、3Dプリンタに用いられる2光子重合と呼ばれる技術による3Dナノアート、原子1個ずつの配置を操作して図柄を描く、ナノよりさらに小さいピコアートといった代表的な手法とその実例が、豊富な画像とともに紹介されます。

取り上げられている作品のひとつ Nanobamaは、カーボンナノチューブ(CNT)を集めて作った米オバマ大統領の似顔絵です。約0.5mmの大きさの顔1つを作るのに、約1.5億本のCNTが使われています。この1.5億という数字は、オバマ氏が初めて大統領の座に就いた2008年大統領選挙の投票者数にちなんでいるそうです。

著者らによると、ナノアート・マイクロアートの作品は、鑑賞者に微小さや不思議さを印象付けることによって、芸術上のメッセージを伝える新しい表現形態となりえます。その一方で、科学技術の進歩をビジュアルな形で示すことで、社会への橋渡しを図るコミュニケーション手段としての役割も果たすこともできます。今後のナノ科学・技術の進歩とともにアーティストとの共同作業が進めば、さらに新たな表現が生まれ人々に驚きを与えることが期待されます。

カテゴリー: 論文 パーマリンク