<論文紹介> RNA干渉により特定の害虫だけを殺す新型農薬に向けて一歩 / 作物の葉に噴霧後乾燥によって安定、効果が長期間持続することが確認される

Credit - Dougal Waters/Getty Images

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RNA干渉 (RNAi) は二本鎖RNA (dsRNA) が遺伝子の発現を阻害する現象で、その発見はアンドリュー・ファイアーとクレイグ・メローの二人に2006年ノーベル生理学・医学賞をもたらしました。RNA干渉を利用すると遺伝子の機能を人為的に制御できるため、遺伝子機能解析の重要なツールとなっています。

このRNA干渉を農薬として害虫駆除に応用できないかという発想は、以前からありました。通常の農薬は、標的とする害虫と同時に無害・有益な昆虫まで殺してしまう難点があるのに対し、RNA干渉は特定の塩基配列を含む遺伝子だけに作用するため、標的とする害虫以外に影響を与えない環境にやさしい農薬の実現が期待できます。

しかし二本鎖RNAを、通常の農薬のように作物にスプレーで噴霧する形で利用するのは難しいと考えられていました。二本鎖RNAは自然環境中で不安定で、紫外線を含む太陽光照射によって短時間で分解されてしまうため効果が持続しないからです。

コーネル大学のJeffrey G. Scott教授らは、コロラドハムシ (Colorado Potato Beetle) を標的にしてRNA農薬の実験を行い、有望な結果を得ました。同教授らがまとめた論文はこのほどPest Management Science誌に発表され、多くのニュースサイトで取り上げられるなど話題を呼んでいます。

Pest Management Science

コロラドハムシはジャガイモなどの作物の葉を食べる害虫で、北米では年間1億ドル(約120億円)の損害をもたらしているといわれます。同教授らは、生物の細胞機能に欠かせないアクチンタンパク質を生産する遺伝子に注目し、その発現を妨げる二本鎖RNAの水溶液を、濃度などの条件を変えてジャガイモの葉に噴霧しました。その結果、1枚の葉につき5 μgの二本鎖RNAを噴霧することで十分な効果があり、その葉を食べたコロラドハムシの幼虫の98%が7日以内に死ぬことが分かりました。また、葉の表面に噴霧後いったん乾燥すれば紫外線や水に対して安定化し、少なくとも28日間は効果が持続することが確かめられました。

しかし実用化に向けてはいくつか課題があり、まず現時点では製造コストが非常に高いことが大きな障害になります。またアクチン遺伝子は、異なる種の間で共通する部分が多く、例えばコロラドハムシとイエバエとでは約80%が共通しているので、標的以外の昆虫に影響を与えないためにはアクチン遺伝子以外のターゲットを探す必要がありそうです。さらに、葉を食べず植物の汁を吸うような種類の害虫には効果がないなど、固有の限界もあります。とはいえ、今回の結果は環境にやさしい新型農薬の開発に向けての大きな一歩として、今後の発展が待たれることは間違いありません。

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