<記事紹介> 濫用されるインパクトファクター / The EMBO Jounral チーフエディターから見た問題点

例年ジャーナルのエディターがそわそわ落ち着かなくなるといわれる最新インパクトファクター (IF) 発表の時期が、今年もやってきました。ジャーナルの影響力を数字で分かりやすく示す指標として圧倒的に注目度が高いIFですが、一方で、論文が掲載されたジャーナルのIFを単純に合算して研究者評価に用いるなど、本来意図されていなかったIFの濫用を批判する声も高まるようになっています。EMBO(欧州分子生物学機構)の公式誌 The EMBO Jounral は分子生物学のトップジャーナルのひとつすが、そこでチーフエディターを務めるBernd Pulverer氏は、同誌最新号のEditorialで改めてこの問題を取り上げています。

  • 記事を読む Pulverer, B., Dora the Brave. The EMBO Journal (2015) 34, 1601-1602. DOI 10.15252/embj.201570010 icon_free (無料公開中)

Credit - George Pchemyan/iStockphoto

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毎年のIFの発表にジャーナル・エディターの多くが神経を尖らせるのは、IFの高低によってその後そのジャーナルに投稿される論文の質が左右されるからです。IFが一定のライン(例えば10)を上回るかどうかで、そのジャーナルへの投稿を決める研究者は少なくないようです。

Pulverer氏は、IF自体はジャーナルの評価指標として悪いものではなく、ジャーナルのIFと論文の質とは概ね相関があることを認めた上で、それを研究者個人の評価に当てはめ、研究助成の採否や研究者の採用・昇進の判断に用いるのは行き過ぎだと指摘しています。またジャーナルがIFを上げることを意識しすぎ、少ない読者層を対象にする質の高い研究成果よりも、簡単に注目を集めやすい流行のテーマを追い求めるようになるのも問題です。

さらにPulverer氏は、IFの算出方法自体の問題点も挙げています。そのひとつは、IFはジャーナルに掲載された論文の被引用回数の平均値(mean)に基づいていますが、引用の実態をより正確に反映する中央値(median)とは隔たりがあるという点です。IFの計算方法はトムソン・ロイターのサイトで示されていて、例えばあるジャーナルが2012・2013の両年に論文100報を掲載し、それらが2014年に1000回引用されたとすると、2014年IFは1000 ÷ 100 = 10となります。しかし、そのジャーナルの掲載論文の多くが10前後の引用を得ているかというと、そうではありません。多くのジャーナルでは、論文の被引用回数に大きな偏りがあり、ごく少数の論文が多くの引用を稼いでIFを引き上げているのが実態です。そのため、例えばThe EMBO Journalの2013年論文の場合、被引用回数の平均値は10.6なのに対し、中央値は8となります。またPulverer氏によると、Nature誌のIFはThe EMBO Journalを大きく上回りますが、一回も引用されない論文の比率はむしろNatureの方が高いそうです。

Pulverer氏の批判は、IFの計算では原著論文と総説の被引用回数を区別せずカウントしていることにも及んでいます。総説は原著論文に比べて引用されやすいため、総説を多く載せるジャーナルの方がIFの面で有利だというのはよく言われるところです。同じことは研究者個人を対象とするh-indexのような指標にも当てはまり、総説を多く発表する研究者の方が高いh-indexを得やすくなります。Pulverer氏は、原著論文の代用として総説を引用する傾向によって、科学的発見の最初の報告者である原著論文の著者から被引用の機会が奪われていると指摘しています。

2012年12月にサンフランシスコで開催されたThe American Society for Cell Biology (ASCB)の大会に集まった細胞生物学分野のジャーナルの編集長ら、The San Francisco Declaration on Research Assessment (DORA)という宣言を採択し、IFの濫用に対抗し、研究成果の価値を研究内容そのもので評価することなどを訴えました。DORAの採択に関わった一員でもあるPulverer氏は、その後の約2年間で、研究評価の書式で原著論文と総説の被引用回数を分けて書く例が増えるなど変化が生まれているとして、研究機関・研究者・研究助成機関・出版界などの関係者が共同歩調をとることを訴えています。

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