<論文紹介> 人工光合成/東大・堂免教授、東工大・前田准教授らが、広範囲の可視光を利用できるd0型の光触媒による水の直接分解に初めて成功(Chem. Eur. J. VIP)

太陽光のエネルギーで水を分解して水素と酸素を作り出す「人工光合成」には、将来のエネルギー問題を解決する「夢の技術」として多くの研究者が取り組んでいます。この技術の大きな課題は、光の照射を受けて水の分解反応を効率よく進めることのできる適切な光触媒材料を見つけることです。

東京大学大学院工学系研究科の堂免一成教授・東京工業大学大学院理工学研究科の前田和彦准教授らの研究グループは、d0(ゼロ)型と呼ばれる電子配置を持つ金属イオンを含む新しい種類の光触媒を開発し、可視光による水の直接分解に成功しました。従来の光触媒より広範囲の可視光を利用できるd0型の光触媒で水の直接分解に成功したのは今回が初めてで、今後の人工光合成技術にとってのマイルストーンとなることが期待できます。この成果は、このほどChemistry – A European Journal誌で報告されました。

 ⇒ Maeda, K., Lu, D. and Domen, K. (2013), Direct Water Splitting into Hydrogen and Oxygen under Visible Light by using Modified TaON Photocatalysts with d0 Electronic Configuration. Chem. Eur. J., 19: 4986–4991. doi: 10.1002/chem.201300158
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★ この論文は、同誌の注目論文としてVIP (Very Important Paper)に選ばれました。
 ⇒ VIP: Direct Water Splitting into Hydrogen and Oxygen under Visible Light by using Modified TaON Photocatalysts with a d0 Electronic Configuration

水の分解のための光触媒には、d10型の電子配置をもつ典型金属イオン(Ge4+やGa3+)か、もしくはd0型の電子配置を持つ遷移金属イオン(Ti4+やTa5+)のどちらかを含む材料を用いるのが一般的です。これまでに堂免教授らのグループは、d10型の典型金属イオンを含む酸窒化物を使って、水の完全分解に成功していました。しかしd10型の光触媒には、可視光(波長400~800nm)のうち最大でも波長500nmまでの光しか使うことができず、可視光全体を有効に使えないという制約があります。一方d0型の光触媒では最大で750nmまでの光を使うことができ、可視光をより有効に利用できるのに加えて、地球上に豊富に存在する元素を材料に使える利点があります。しかし実際に使える触媒の調製には困難が伴い、d0型の光触媒で水の分解に成功した例はこれまで報告されていませんでした。

今回、同グループは酸化ジルコニウム修飾酸窒化タンタル(ZrO2/TaON)を修飾した光触媒を最適化することにより、d0型の光触媒では初めて可視光による純水の分解に成功しました。光を反応に使う効率を示す「量子収率」は、波長420nmの光で0.1%以下と推定され、現時点では低い値に留まっていますが、d0型の光触媒として使える材料には多くの選択肢が存在するため、今後の改良によって効率が改善する可能性は十分にあります。今回の成功が、この注目分野での次のブレイクスルーにつながる重要な第一歩となることを期待したいものです。

■ Chem. Eur. J.では、二人の査読者が特に重要性を認めた論文をVIP (Very Important Paper)としています。
 ⇒ 最近VIPに選ばれた論文

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