一酸化炭素(CO)の二量体であるエチレンジオンは、O=C=C=Oという一見きわめて単純な構造ながら単離や観察に成功した例がなく、100年間以上も仮説上の存在に留まっていました。米アリゾナ大学のAndrei Sanov教授らのグループは、スペクトル解析によってエチレンジオンの実在を示す決定的な証拠を得たとして、このほどAngewandte Chemie International Editionで報告しました。
 
- 論文 Dixon, A. R., Xue, T. and Sanov, A. (2015), Spectroscopy of Ethylenedione. Angew. Chem. Int. Ed.. doi: 10.1002/anie.201503423 (本文を読むにはアクセス権が必要です)
- アリゾナ大学の発表資料 UA Researchers Reveal Elusive Molecule (July 13, 2015)
- 紹介記事 Spectroscopic Characterization of Ethylenedione (July 14, 2015, Chemistry Views)
ウィキペディアのエチレンジオンの項では、エチレンジオンは「仮説上の化合物」で「多くの製造の試みにも関わらず、単離されたことも遷移種として観察されたこともない」とされています。(2015年7月15日アクセス時) エチレンジオンは、1913年に反応中間体として仮定され、理論計算では存在が予測されていましたが、存在を実験的に確認した例は、多くの試みにも関わらずありませんでした。1940年代には、エチレンジオンを疲労から癌までさまざまな疾患に効く解毒剤グリオキシリド(glyoxylide)の有効成分だとする主張が注目を集めたことがありますが、FDA(アメリカ食品医薬品局)はこれを詐欺として完全に否定しました。こうして、エチレンジオンは100年以上の間、幻の分子であり続けました。
理論計算によると、エチレンジオンはきわめて不安定な分子で、およそ0.5ナノ秒(1ナノ秒 = 10億分の1秒)という短時間のうちに基底状態の三重項(triplet)から一重項(singlet)へと移行し、解離して2個のCO分子になると予測されています。このような短寿命が、エチレンジオンの存在を捉えにくくしています。
Sanov教授らのグループは、まずグリオキサール(C2H2O2)からエチレンジオンの安定的なアニオン(陰イオン)を生成しました。次いで陰イオン光電子分光法を用いることによって、誕生直後のエチレンジオン分子の光電子スペクトルを測定することに成功しました。スペクトルからは三重項と一重項の2種類の状態のエチレンジオンの存在が確認され、解析の結果、これまでの理論計算による予測と一致することが分かりました。この発見は、エチレンジオンの存在を初めて実験的に裏付けた決定的な証拠となるものです。
 
								




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