<新刊紹介> サイエンスコミュニケーション - 科学者のための実践ガイド|成功のためのポイントを豊富な実例とともに解説

Science Communication: A Practical Guide for Scientists
Laura Bowater, Kay Yeoman, Stephen Asworth
ISBN: 978-1-1199-9312-4
Paperback / 384 pages / November 2012
US $49.95
(上の書名または右の表紙画像をクリックすると、目次や試読用のサンプル章などをご覧いただけます)

本書は「一般読者に分かりやすい文章を書くコツ」などを説く、狭い意味でのハウツー本ではありません。そういった要素も若干含まれていますが、むしろ一般市民に科学への理解を深めてもらうために科学者が実践できる具体的な活動を幅広く取り上げ、それらを成功に導くための実用的なアドバイスを提供することに主眼を置いた本です。各章の執筆者の多くは英国でサイエンスコミュニケーションの活動に携わる科学者で、英国を中心とする豊富な事例の紹介が本書の特徴となっています。

科学者が市民と直接対面して行う「Direct Public Communication」についての章の中では、例えば日本でも各地で盛んになりつつある「サイエンス・カフェ」(Cafe scientifique)を取り上げて、約10ページにわたって論じています。サイエンス・カフェの歴史、目的、運営にあたっての留意点などを詳しく解説するとともに、英アバディーン大学が地元の書店内のカフェで行っている活動をケーススタディとして紹介しています。

一方、メディアを介しての「Indirect Public Communication」に関する章では、テレビ・新聞といったマスメディア経由でのコミュニケーションに加えて、ブログやウェブサイトのようなネットを通じての発信活動も取り上げています。例えばブログについては、Ph.D.の院生としての研究活動の傍ら科学ブログbench twentyoneを立ち上げ成功に導いたJoshua Howgegoさんに、ブログを継続する中で直面した困難や、研究者としてプラスになった点、また心がけているポイントなどをケーススタディーとして語ってもらっています。ブログを始めた当初、彼は記事の執筆に時間がかかることや読者が少ないことに不安と懸念を感じましたが、優れたブログとして表彰されたり新しい人々と出会う機会を得たことが励ましになったそうです。現在では、広範な読者層に向けて情報発信するための経験とスキルを身に付けるためのトレーニングとして、若手研究者がブログを書くことは非常に有益と思うと語っています。

そのほか地元の博物館などとタイアップして行う市民参加型イベントや、学校で児童生徒に向けて行う活動なども取り上げています。「理科離れ」や科学への関心低下に懸念が高まる昨今ですが、市民の科学リテラシーの向上をめざした活動に興味のある方、特に海外での実践例を知りたい方にぜひお勧めしたい一冊です。

カテゴリー: 書籍 パーマリンク